阪急ブレーブスの歌

阪急ブレーブスの歌（2代目）

「阪急ブレーブスの歌」は、日本野球機構（NPB）のパシフィック・リーグに所属していた阪急ブレーブス（現在のオリックス・バファローズの前身球団）が、1950年（昭和25年）に正式な球団歌として制定した楽曲です。これは、1936年の球団創設時に作られた初代「阪急職業野球団応援歌」に続く、球団にとって2代目の歌となりました。作詞は河西新太郎、作曲は河崎一朗が手掛けています。

制定の背景

阪急球団は、戦前からプロ野球を牽引する存在でしたが、1949年末に日本のプロ野球界は大きく変動期を迎えます。いわゆる2リーグ分裂が発生し、阪急は新たに発足したパシフィック・リーグへの参加を決定しました。この大きな転換期を機に、球団は新たな時代にふさわしいシンボルとして、新しい球団歌の制定を企画します。

新しい歌の歌詞を広く国民に求めるため、新聞広告を通じて懸賞公募が行われました。この公募には1665篇もの応募が寄せられ、その中から香川県に住む詩人で、元新聞記者でもあった河西新太郎の作品が見事に採用されることとなりました。

1950年は、プロ野球がセ・リーグとパ・リーグに分かれて最初のシーズン、すなわち2リーグ制元年にあたります。この年には、阪急以外にも多くの球団が新たな歌を制定しました。パ・リーグでは、東急が「東急フライヤーズの唄」、新規参入の毎日が「わがオリオンズ」、西鉄が「西鉄野球団歌」を、そしてセ・リーグでは、中日が「ドラゴンズの歌」、広島が「我れらのカープ」をそれぞれ発表しています。興味深いことに、このうち広島カープの初代球団歌「我れらのカープ」も、阪急の歌と同じ河西新太郎が作詞した応募作が採用されています。

作曲を担当した河崎一朗は、阪急東宝グループの一員である宝塚歌劇団の理事を務め、数多くの舞台音楽（劇伴）を手掛けていた人物です。初代球団歌を作曲した古谷幸一も宝塚音楽学校の教員であり、ブレーブスと同じ阪急グループ内の宝塚歌劇関係者からの起用という流れが続いています。

短命に終わった歌

しかしながら、この2代目「阪急ブレーブスの歌」は、残念ながらファンの間で広く親しまれ、定着することは限定的であったと見られています。制定からわずか数年後の1957年（昭和32年）シーズンを最後に、その使用は終了しました。この年は、球団創始者である小林一三が逝去した年でもあります。

翌1958年（昭和33年）からは、新たに制定された3代目「阪急ブレーブス団歌」（作詞・内海重典、作曲・入江薫）へと代替わりします。この3代目「団歌」は、後に「もう一つの六甲おろし」とも呼ばれるほどファンに浸透し、阪急ブレーブスとしての最後のシーズンとなる1988年まで、別途制作された「阪急ブレーブス応援歌」（作詞・サトウハチロー、作曲・藤山一郎）などの応援歌と共に長く歌い継がれていきました。

2代目「阪急ブレーブスの歌」が歴史の中でどのような位置づけであったかは、球団史料からも示唆されます。1987年に刊行された『阪急ブレーブス五十年史』には、初代「職業野球団応援歌」や3代目「団歌」、さらには「応援歌」の楽譜が掲載されているのに対し、2代目の歌については歌詞のみの掲載に留まっています。これは、この歌が球団史において、他の歌ほど中心的な役割を担わなかったことを示唆しているのかもしれません。

また、同じ河西新太郎が作詞した広島カープの初代球団歌「我れらのカープ」も、制定からわずか3年後の1953年には2代目「広島カープの歌」に代替わりしています。この点も、1950年という時代の空気や、公募によって生まれた歌が必ずしもその後の球団のシンボルとして長く機能するとは限らなかった、という側面を示唆する類似例と言えるでしょう。

このように、2代目「阪急ブレーブスの歌」は、2リーグ制元年に新たな一歩を踏み出した阪急ブレーブスの意欲を象徴する歌として誕生しましたが、歴史の中に短期間のみ存在し、より長く親しまれることになる3代目の歌へとその座を譲ることになった楽曲です。

もう一度検索