防人歌

防人歌（さきもりのうた）

防人歌とは、大化の改新以降に九州沿岸で守りに就いた防人たちの心情を詠んだ詩のことです。この歌は、彼らがどのような厳しい環境にいたのか、そして家族への思い、忠誠心が込められています。

歴史的背景

防人の任務は非常に過酷でした。防人たちは東国から九州まで自力で移動しなければならず、その間の食糧や武器も各自で調達する必要がありました。さらに、任務中は税の免除が行われず、彼らは極限の状態で任務を遂行しなければなりませんでした。このような厳しい環境の中で生まれたのが、防人歌です。

万葉集の中の防人歌

防人歌は『万葉集』に収められています。特に巻20には多くの防人歌が集められており、その背景には奈良時代中頃における防人制度の変化に伴う情報収集の一環であった可能性が指摘されています。大伴家持が収集し、撰集した際に成型された防人歌は、当時の社会状況を映し出しており、その内容は感情豊かです。

例えば、筑前国の守山上憶良が詠んだ歌の一節には、具体的な地名が盛り込まれ、故郷を思う気持ちが強く表現されています。「沖つ鳥鴨といふ船の還り来ば也良の崎守早く告げこそ」という歌からは、家族への思いとともに、防人の任務に対する切実な感情が伝わってきます。

防人歌の内容分析

防人歌の内容を分析すると、主に以下のようなテーマが浮かび上がります。

• - 妻や恋人への思い：40.2％
• - 母に対する愛情：24.1％
• - 父への感謝：13.7％
• - 望郷の念：6.8％
• - 悲哀や忠君のテーマ：それぞれ3.4％
• - 子どもを思う気持ち：2.2％

このように家族に対する思いが特に強調されており、その感情は詩の中でリアルに表現されています。

防人歌の例として、以下のような歌があります。

• - 「国国の　防人つどひ　船乗りて　別るを見れば　いともすべ無し」

現在語訳：全国から防人が集まり、船に乗って別れる姿を見たら、どうしようもない気持ちになる。

• - 「わが妻は　いたく恋ひらし　飲む水に　影さへ見えて　世に忘られず」

現在語訳：私の妻はとても恋しがっている様子で、飲もうとする水の中に影まで見えていて、決して忘れられない。

• - 「父母が　頭掻き撫で　幸くあれて　言いし言葉ぜ　忘れかねつる」

現在語訳：父母が無事でいなさいと頭をなでてくれたことが忘れられない。

このように防人歌は、当時の防人たちの気持ちや生活を伝える大切な文献となっています。

文学的な受容

昭和17年（1942年）に日本文学報国会によって選ばれた『愛国百人一首』には、『万葉集』から23首の詩が収められ、その中には6首の防人歌が含まれています。これらは「皇室への忠誠」や「家族への敬愛」を表現したものです。

防人歌は、歌曲や文学においても影響を与えており、歌手のさだまさしが自己のシングルに取り入れるなど、今なお我々の心に響く存在です。私たちがこの歌を通じて感じることができる、家族や愛、国家への思いは、時代や文化を超えて共鳴し続けています。

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