山上憶良

山上憶良（やまのうえのおくら）

山上憶良は、奈良時代初期（7世紀後半から8世紀前半）に生きた貴族であり、万葉歌人として知られています。本名は山於 憶良とも記され、皇別氏族である山上臣の出身です。最終官位は従五位下・筑前守。

生涯

大宝元年（701年）、第八次遣唐使の少録に任ぜられ、翌年にかけて中国に渡り、儒教や仏教といった最先端の学問を学びました。帰国後、和銅7年（714年）に従五位下に叙爵。霊亀2年（716年）には伯耆守に任ぜられます。養老5年（721年）には、皇太子（後の聖武天皇）の侍講を務めるなど、順調にキャリアを重ねました。

神亀3年（726年）頃には筑前守として九州に赴任。大宰府にいた大伴旅人とともに筑紫歌壇を形成し、多くの歌を詠みました。天平4年（732年）頃に帰京し、翌年に病に倒れ、そのまま亡くなったとされています。

歌風と作品

山上憶良は、仏教や儒教の思想に深く傾倒していました。そのため、死、貧困、老い、病といった人間の苦しみや、社会の矛盾に対する鋭い観察眼を持っていました。官人という立場でありながら、重税に苦しむ農民や、戦地に赴く夫を見送る妻の心情、子供への愛情などを歌に詠み、社会に対する優しさや弱者への共感を表現しました。

彼の歌は、抒情的な感情描写に優れており、自身の感情を率直に表現した作品も多く見られます。代表作としては、貧しい農民の生活を描いた『貧窮問答歌』や、子供への愛情を歌った『子を思ふ歌』などが挙げられます。

『万葉集』には、山上憶良の歌が78首も収録されており、大伴家持、柿本人麻呂、山部赤人らと並び、奈良時代を代表する歌人として高く評価されています。また、『新古今和歌集』をはじめとする勅撰和歌集にも5首が採録されています。

代表的な歌

好去好来の歌：遣唐使の無事の帰国を祈る歌
日本挽歌：大君の崩御を悼む歌
子等を思ふ歌：子供への愛情を切々と歌った歌
秋の野の花を詠める歌：秋の七草を数え上げた歌
* 貧窮問答歌：貧しい農民の悲惨な生活を描いた歌

文化的影響

山上憶良の歌は、万葉集を通じて後世の文学に大きな影響を与えました。彼の歌は、社会の底辺に生きる人々の苦しみや、普遍的な人間の感情を率直に表現しており、多くの人々の共感を呼びました。

また、令和の元号の典拠となった万葉集の梅花の歌の序文は、山上憶良の作であるという説もあります。

山上憶良は、太宰府市をはじめとする九州各地に歌碑が建立されており、その功績は長く讃えられています。岐阜県神戸町の神戸町役場には、「子等を思う歌」の歌碑が設置されています。

人物像に関する異説

万葉学者の中西進は、山上憶良が百済からの渡来人であるという説を提唱しています。この説は、憶良の出自に関する新たな視点を提供するものとして注目されていますが、歴史学的な検証が必要とされています。

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