阿久根台風

阿久根台風：戦後日本を襲った悲劇と、その背景

1945年10月、日本列島を襲った阿久根台風（昭和20年台風第20号、国際名：ルイーズ）は、その規模や勢力こそ大きくはなかったものの、甚大な被害をもたらしました。これは、わずか1ヶ月前に大きな被害を出した枕崎台風とほぼ同じ経路を辿ったこと、そして台風接近前から前線活動による長雨に見舞われていたことが大きな要因です。

台風の進路と気象状況

10月4日、サイパン島の東海上で発生した台風は、北西に進路を取り、10月9日には沖縄本島の東で一時停滞しました。その後、北寄りに進路を変え勢力を増し、10日14時には鹿児島県阿久根市付近に上陸。九州を斜めに横断し、周防灘、中国地方を経て日本海へ進み、能登半島付近を通過後、津軽海峡西海上にて消滅しました。

九州や中国地方では猛烈な暴風が吹き荒れ、鹿児島県枕崎市では最大瞬間風速51.6m/sを記録しました。西日本各地では8日から9日にかけて大雨が降り続き、九州から中部地方にかけての期間降水量は200～300mmに達しました。特に兵庫県では、水害による被害が甚大でした。

各地の被害状況

阿久根台風は、死者377名、行方不明者74名、負傷者202名という人的被害に加え、住家損壊6,181棟、浸水174,146棟という物的被害をもたらしました。当時の被害額は1億8700万円に上ります。

鹿児島県: 上陸地点である鹿児島県では、死者・行方不明者40名を数え、兵庫県と並んで最も大きな被害を受けた地域の一つとなりました。
広島県: 原爆投下後の広島市では、枕崎台風と阿久根台風による豪雨で多くの橋梁が流失するなど、復興の妨げとなりました。
兵庫県: 兵庫県では200名を超える死者が出ました。播磨地方を中心にため池の決壊が相次ぎ、下流域に甚大な浸水被害をもたらしました。加古川水系、美嚢川流域、明石川流域など、多くの河川で堤防決壊や橋梁流出が発生し、特に明石市大久保町（現在の明石市域）では「大久保大水害」と呼ばれるほどの被害に見舞われました。神戸市でも浸水被害が発生し、六甲山地では河川や道路、橋梁に大きな被害が出ました。
沖縄（米軍）: 当時、アメリカ軍の占領下にあった沖縄では、台風の進路が予想を大きく外れたため、中城湾（バックナー・ベイ）に停泊していた米軍艦艇が避難できず、多数の艦船が沈没・座礁・大破しました。人的被害も大きく、アメリカ軍にとって沖縄上陸以来最悪の暴風となりました。
* 静岡県: 阿久根台風と台風19号の影響で、静岡県では7年ぶりとなる大雨が降り、天竜川西派川が決壊するなど、大きな被害が発生しました。

被害拡大の背景

阿久根台風の被害が拡大した背景には、戦時中の国土荒廃が大きく関わっています。山林の過剰伐採による山地の崩壊や河川の氾濫、防潮林の破壊、そして縮減された治水事業予算と河川改修工事の停滞などが、災害の規模を拡大させました。さらに、台風による農作物への被害は、既に冷害の影響を受けていた食糧事情をいっそう悪化させました。

阿久根台風を題材とした作品

宮本百合子の小説『播州平野』は、敗戦直後の日本を舞台に、豪雨による鉄道寸断と水害の描写が阿久根台風の被害を反映していると推測されています。

阿久根台風は、戦後の日本社会の疲弊と脆弱性を改めて浮き彫りにした、忘れられない災害として歴史に刻まれています。

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