阿寒に果つ

『阿寒に果つ』（あかんにはつ）は、作家・渡辺淳一による長編小説であり、それを原作として製作された同名の日本映画です。小説は、雑誌『婦人公論』にて1971年7月号から1972年12月号にかけて連載されました。渡辺淳一自身が語るところによれば、この小説の主要人物である時任純子は、彼が札幌南高校時代に同級生であった、天才少女画家として知られた加清純子がモデルとなっており、作品全体に私小説的な色彩が濃く反映されています。

ストーリー概要

物語は、卓越した才能を持つ画家として注目されながらも、若くして北海道の阿寒湖で自らの命を絶った時任純子の死から20年後を舞台に展開します。作家となった「私」は、純子の死の真相を探るべく、かつて彼女と深い関わりを持っていた五人の男性たちを一人ずつ訪ね、彼らとの対話を通して純子の生涯と最期に迫ろうとします。

映画化

小説『阿寒に果つ』は、1975年6月21日に東宝配給により映画として公開されました。監督は渡辺邦彦が担当しています。映画の製作決定は1974年秋に報じられましたが、当初は人気アイドルであった山口百恵の主演作として企画が進められていました。しかし、脚本に盛り込まれていた裸体描写などの内容が問題となり、山口側の出演承諾が得られませんでした。これを受けて、製作側は急ぎ主演女優の選考を進めることになります。

主演女優の選考過程には複数の説が存在します。一説には、既に映画やテレビドラマで主役経験を持つ6、7名の女優たちが、東宝プロデューサーの田中収に対し自ら出演を強く売り込み、最終候補の中から特に熱意を示した五十嵐じゅんが抜擢されたとされています。別の説では、五十嵐が原作小説を読み、渡辺淳一にファンレターを送って「映画化やドラマ化の際にはヒロインを演じたい」と希望を伝えたことがきっかけとなり、渡辺が田中プロデューサーに五十嵐を推薦。面会した田中プロデューサーが即座にヒロインに決定したとも伝えられています。五十嵐じゅんのヒロイン決定は、1975年1月17日に正式発表されました。

製作背景と撮影

ヒロインに決定した五十嵐じゅんは、実は1973年4月に芸能界から一旦引退していました。しかし、『阿寒に果つ』のヒロインを演じたいという強い思いから、本作のためだけに芸能活動への復帰を決意しました。彼女は「この作品一本に女優生活の全てを懸けてもいい」「ラブシーンも多数あるが、監督のおっしゃる通りにやります。この一本で倒れてもいい覚悟です」と語るなど、並々ならぬ決意と熱意を持って役に臨み、キスシーンや全裸シーンを含む体当たりの演技を披露しました。撮影は、1975年2月初旬から約3週間にわたり、物語の重要な舞台となる雪深い北海道の阿寒湖周辺を中心にロケが行われました。

キャスト・スタッフ

主要キャストは以下の通りです。

時任純子：五十嵐じゅん（現・淳子）
田辺俊一：三浦友和
浦部雄策：福田善之
村木浩司：大出俊
殿村知之：地井武男

その他、時任蘭子役に二宮さよ子などが出演しています。

主なスタッフは以下の通りです。

監督：渡辺邦彦
製作：田中収、森岡道夫
脚本：石森史郎、岡田正代
原作：渡辺淳一
撮影：木村大作
* 音楽：眞鍋理一郎

同時上映と興行成績

映画『阿寒に果つ』は、公開時に神代辰巳監督、萩原健一主演の映画『アフリカの光』と二本立てで上映されました。これは東宝と渡辺企画が提携して製作した作品です。なお、当初は1975年1月17日の五十嵐主演決定発表時、同年4月5日公開の『雨のアムステルダム』との併映が予定されていましたが、後に変更されています。映画の興行成績については、芳しい結果ではなかったと一般的に言われています。メディア化の状況としては、1988年に東宝からVHSビデオが発売された記録がありますが、2019年9月時点ではDVDやBlu-ray Discといった形で再リリースされた情報は確認されていません。

関連事項

本作のモデルとされる画家・加清純子に関連する人物として、作家の荒巻義雄が挙げられます。荒巻は渡辺淳一の高校時代の同級生であり、彼自身の長編小説『白き日旅立てば不死』の中で、加清純子をモデルとした「加能純子」というキャラクターを登場させています。

外部リンクとして、日本映画データベースやallcinema、KINENOTE、IMDbなどに作品情報が登録されています。

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