阿弖流為II世

『阿弖流為II世』：現代によみがえる古代の英雄

高橋克彦の原作と原哲夫の力強い作画が融合した漫画作品『阿弖流為II世』は、歴史とSF、そしてアクションが絶妙に絡み合った、読み応えのある一冊です。2000年、小学館『コミックGOTTA』にて連載され、単行本は全1巻で構成されています。

物語は、考古学者である神上龍一が岩手県の早池峰山中で古代の遺物を発見するところから始まります。その遺物は、国家機密に指定されるほど重要なものでした。龍一は婚約者である美雪にメールでこの発見を知らせますが、直後に謎の男たちに殺害され、発見現場も爆破されてしまいます。

しかし、龍一が所持していた剣が突如光り輝き、1200年の時を超えて伝説の英雄・阿弖流為が現代によみがえります。龍一の肉体を借りて蘇ったアテルイは、地球を滅ぼして母星に帰還しようとする異星人・田村麻呂の陰謀を阻止するため、東京へと向かうのです。

主要登場人物：歴史とフィクションの融合

本作の登場人物は、歴史上の実在の人物と、フィクションの人物が複雑に絡み合い、物語に深みを与えています。

神上龍一 (こうがみ りゅういち): 東都大学考古学研究所助教授。牛乳アレルギーという意外な一面を持つ。物語の始まりにおいて、田村麻呂の陰謀に巻き込まれ命を落とすも、阿弖流為の復活の鍵となります。
阿弖流為 (アテルイ): 蝦夷の英雄。歴史上では朝廷との戦いに敗れ処刑されましたが、本作では地球にやってきた異星人の一人として描かれ、現代によみがえり、地球を守るために戦います。現代社会になじむのに苦労しながらも、その強靭な肉体と持ち前の機転で難局を切り抜けます。牛乳好きという意外な一面も。
坂上田村麻呂 (さかのうえ の たむらまろ): 歴史上は征夷大将軍として知られますが、本作ではアテルイと同様に地球にやってきた異星人です。母星への帰還を目論み、地球の破壊をも辞さない冷酷な人物として描かれています。日本の政治を影から操り、長きに渡り生き延びたことで、もはや人間の形を保っていないとさえ描写されています。
小笠原美雪 (おがさわら みゆき): 龍一の婚約者で週刊誌の記者。龍一からのメールをきっかけに田村麻呂の標的にされますが、アテルイに助けられ、以降は彼と共に戦うことになります。
* その他: アテルイの従者である八百比丘尼や武蔵坊、田村麻呂に操られる内閣情報調査室の黒沢、そして様々な現代の人物たちが、アテルイと田村麻呂の戦いに巻き込まれていきます。銀行強盗の少年や、政治家たち、テレビ関係者など、それぞれの思惑や立場が複雑に絡み合い、物語に緊張感を与えています。

物語の展開：壮大なスケールとアクション

アテルイは、現代社会のテクノロジーを巧みに利用しながら、田村麻呂とその手下たちと激しい戦いを繰り広げます。高層ビルからの飛び降りや、現代兵器を駆使した戦闘シーンなど、迫力満点のアクションが物語を盛り上げます。

一方、田村麻呂は日本の政治を巧みに操り、自身の野望を着々と進めていきます。アテルイと田村麻呂、それぞれの思惑がぶつかり合う中、物語はクライマックスへと向かいます。歴史とSF、そしてアクションが見事に融合した、目が離せない展開が最後まで続きます。

まとめ：歴史とフィクションの融合による新たな解釈

『阿弖流為II世』は、歴史上の実在の人物とフィクションを巧みに融合させた、独自の解釈による物語です。歴史に新たな視点を与えつつ、現代社会への鋭い風刺も織り交ぜた、見応えのある作品となっています。原哲夫の力強い作画も相まって、読者を圧倒的な世界観へと引き込みます。単行本は全1巻ですが、その中に凝縮された情報量とドラマは、読後感の強い一冊と言えるでしょう。

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