早池峰山

早池峰山：北上山地の女王、高山植物の宝庫、そして信仰の山

早池峰山は、岩手県にそびえる標高1917mの雄大な山です。北上山地の最高峰として君臨し、その姿は古くから人々を魅了してきました。一等三角点の標高は1913.61mと計測されています。

その名は、日本百名山、新日本百名山、花の百名山、新・花の百名山、そして一等三角点百名山にも名を連ね、名実ともに日本の代表的な山の一つと言えるでしょう。六角牛山、石上山と共に「遠野三山」として知られ、山頂は宮古市、遠野市、花巻市の3市にまたがる、まさに県境の要衝となっています。古くは「早池峰」とも呼ばれ、日本百名山にもその名で登録されています。

稀少な高山植物の楽園

早池峰山は、地質学的にも特異な山です。全山が超塩基性岩であるかんらん岩や蛇紋岩で構成されているため、他の地域では見られない珍しい植物が生息しています。ハヤチネウスユキソウ、ナンブトラノオ、ナンブイヌナズナ、ナンブトウウチソウなど、蛇紋岩地帯特有の固有種が多く見られ、狭い地域にこれほど多くの固有種（亜種、変種を含む）が集まっていることは、世界的にも珍しいとされています。そのため、高山植物愛好家にとって、早池峰山はまさに憧れの山なのです。この点において、北海道のアポイ岳や群馬県の至仏山などが、早池峰山と同様に蛇紋岩植物で知られる山として挙げられます。

早池峰山に生育するハヤチネウスユキソウなどの高山植物群落、そして南側の薬師岳の森林植物群落は、「早池峰山および薬師岳の高山帯・森林植物群落」として国の特別天然記念物に指定されています。さらに、本州で唯一アカエゾマツの自生が確認されている場所としても有名で、「早池峰山のアカエゾマツ自生南限地」として国の天然記念物に指定されています。

これらの貴重な植物を守るため、早池峰山北斜面の1370haは「早池峰自然環境保全地域」として1975年に指定され、全域が特別地区、一部が野生動植物保護地区に指定されています。野生動植物の捕獲や採取、木材の伐採、鉱物や土石の採取などは厳しく制限されています。また、早池峰山とその南側の薬師岳一帯、5463haは「早池峰国定公園」として1982年に指定され、自然環境の保護と保全が図られています。山地帯から高山帯までの植生の垂直分布がはっきりと観察できる点も、早池峰山の大きな特徴です。

山岳信仰と神話、伝説

早池峰山は、古くから山岳信仰の対象として崇められてきました。山頂と麓の岳集落には早池峰神社があり、神仏習合の時代から盛んな信仰が受け継がれています。麓の岳集落では、刀を手に勇壮に舞う早池峰神楽が伝承されています。

早池峰山には、興味深い神話や伝説も数多く残されています。大和国の天香久山と耳成山が畝傍山を巡って争ったという神話と類似した話が、早池峰山と岩手山にも存在します。両山は姫神山を巡って争い、さらには岩手山が姫神山の遠ざけようとして送り山を頼ったものの失敗し、怒って送り山の首を斬ったという話も伝えられています。この伝説は、竹生島の由来神話にも似た要素が見られる興味深いものです。

『遠野物語』にも早池峰山が登場します。女神が力士に大力を授けた話や、女神が三人の娘にそれぞれ山を与えたという話が有名です。三女が最も美しい早池峰山を得たという物語は、早池峰山の美しさと神聖さを象徴しています。

登山ルートとアクセス

早池峰山への登山は、岳集落からが一般的です。岳集落には民宿が数軒あり、登山の拠点となっています。6月第2日曜日から8月第1日曜日までの土日祝日は、登山口付近の混雑緩和のため、岳集落から江繁地区までの車道がマイカー規制となり、シャトルバスが運行されます。

山稜は東西方向に伸びており、鶏頭山を経由する縦走路や北面からの登山道もありますが、一般的には南側の2本の登山道（小田越コース、河原坊コース）が利用されます。河原坊コースは、2016年の登山道の崩落により、現在通行止めとなっています。小田越コースは標高差917mと比較的長く険しいコースです。その他、門馬コースや平津戸コースなど複数の登山道があります。

早池峰水源の森

早池峰山とその周辺の森は、「早池峰水源の森」として水源の森百選に選ばれています。早池峰国定公園の指定区域内にあるこの森は、二級河川閉伊川と北上川水系稗貫川の源流域であり、その水は早池峰ダムに貯水され、灌漑用水や発電、さらにはイワナなどの養殖にも利用されています。

早池峰山は、豊かな自然、貴重な高山植物、そして歴史と信仰が深く結びついた、まさに日本の霊峰と言えるでしょう。その魅力は、多くの登山者や自然愛好家を惹きつけ続けています。

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