阿曇比羅夫

阿曇比羅夫：白村江の戦いに散った豪族

阿曇比羅夫（あずみ の ひらふ）は、飛鳥時代を代表する豪族の一人です。比良夫（ひらふ）とも表記され、阿曇氏（安曇氏）に属し、冠位は大錦中でした。氏には「連」の称号が与えられており、その出自や地位の高さがうかがえます。一部の史料では「阿曇山背」と表記されることもあります。

比羅夫の生涯は、百済との深い関わりによって彩られています。舒明天皇の時代、彼は百済への使者として派遣されました。舒明天皇13年（641年）の崩御に際しては、翌年、百済からの弔使を伴って帰国し、その接待役を務めるなど、外交において重要な役割を担っていました。この際、百済の王子翹岐（きょき）を自邸に迎え入れるなど、個人的な交流もあったと推測されます。歴史家の篠川賢氏は、比羅夫を朝廷内で重要な地位にあった「マエツキミ」と推測しています。

その後、斉明天皇7年（661年）、高句麗が唐の攻撃を受けた際、比羅夫は百済救援のための軍の将軍として、百済へと渡ります。そして、天智天皇元年（662年）、日本に渡来した百済の王子・豊璋（ぶしょう）を王位に就かせようと、水軍170隻を率いて、豊璋と共に再び百済へと向かいました。この時、比羅夫は既に大錦中の地位にありました。

比羅夫の生涯における最大の転換点は、白村江の戦いでした。天智天皇2年8月27、28日（663年10月4、5日）、白村江の戦いで、彼は壮絶な戦死を遂げたと言われています。この戦いは、日本と百済連合軍が唐と新羅連合軍に敗北した、日本古代史における大きな転換点となりました。比羅夫の勇猛な姿は、この戦いの悲劇性を際立たせるものとなっています。

比羅夫の功績と、その悲劇的な最期は、現在も人々の記憶に深く刻まれています。長野県安曇野市の穂高神社では、彼は「安曇連比羅夫命」として祀られており、同神社の御船祭りは毎年9月27日に行われます。この祭りは、比羅夫の命日とされていることから、地元の人々にとって、比羅夫は今もなお、深く敬愛されている存在であると言えるでしょう。

比羅夫の生涯は、飛鳥時代の国際情勢、特に日本と朝鮮半島との複雑な関係を理解する上で、重要な手がかりとなります。彼の活動は、外交使節としての活動から軍事指導者としての活動まで多岐に渡り、その功績は、現代においても再評価され続けるべきでしょう。白村江の戦いにおける彼の最期は、悲劇ではありましたが、同時に、日本古代史における重要な一ページを飾るものとなっています。彼の生き様は、後世の人々に、勇気と信念、そして時代の波に翻弄される人間の姿を深く伝えています。

関連項目

飛鳥時代以前の人物一覧
阿曇磯良
志賀海神社
三韓征伐

もう一度検索