阿部昭

阿部昭

阿部昭（あべ あきら、1934年9月22日 - 1989年5月19日）は、昭和時代に活躍した日本の小説家であり、かつてはテレビディレクターとしても活動していました。彼は、自らの家族や身近な出来事を題材とした私小説的な短編を得意とし、「内向の世代」を代表する作家の一人として文学史に名を刻んでいます。

生涯

阿部昭は、1934年、広島県広島市に、大日本帝国海軍の将校であった阿部信夫の息子として生を受けました。幼少期は父親の転勤に伴い、神奈川県藤沢市で過ごし、自然豊かな湘南の地で育ちました。東京大学文学部仏文科に進学後は、学業のかたわら学生演劇に熱中し、芸術への造詣を深めました。大学在学中には、後に著名なチェリストとなる堤剛や安田謙一郎の家庭教師を務めたというエピソードも残っています。

1959年、大学卒業後にラジオ東京（現在のTBS）に入社し、ラジオやテレビのディレクターとして番組制作に携わりました。多忙な日々を送る傍ら、創作活動を続け、1962年に「子供部屋」で文學界新人賞を受賞し、作家としての足掛かりを築きました。1968年には処女短篇集『未成年』を刊行し、本格的に文壇デビューを果たしました。

1970年、短篇「司令の休暇」が注目を集め、作家としての評価を確立。1971年にはTBSを退社し、作家業に専念することを決意しました。湘南を舞台にした作品を多く手がけ、1973年には『千年』で毎日出版文化賞を受賞。1976年には『人生の一日』で芸術選奨新人賞を受賞するなど、数々の文学賞に輝きました。芥川賞候補になること6回を数えましたが、受賞には至りませんでした。

1989年5月19日、急性心不全のため神奈川県藤沢市の病院で逝去。55歳という若さでした。

作風と評価

阿部昭の作品は、敗戦後の価値観の変容の中で権威を失った元軍人の父、知的障害を持つ兄や息子など、自身の家族に関わる事柄をモチーフとすることが多く、私小説の系譜に連なるものとして評価されています。彼の作品は、日常に潜む感情や人間関係の機微を繊細な筆致で描き出し、読者の心を深く揺さぶります。特に、短編小説の名手として知られ、晩年には評論『短編小説礼讃』を著し、短編小説の魅力を熱く語りました。エッセイ集『言葉ありき』なども高い評価を受けています。また、プロ野球ファンとしても知られ、阪神タイガースと阪急ブレーブスのファンであったことは、彼の親しみやすい人柄を物語るエピソードとして知られています。

阿部昭の作品は、『阿部昭全作品』（全8巻、福武書店）や没後に刊行された『阿部昭集』（全14巻、岩波書店）にまとめられています。

主要作品

未成年 (1968)
大いなる日 (1970)
司令の休暇 (1971)
千年 (1973)
無縁の生活 (1974)
人生の一日 (1976)
子供部屋 (1978)
父たちの肖像 (1979)
言葉ありき (1980)
短編小説礼讃 (1986)

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