降霊術師の帝国

クラーク・アシュトン・スミスの短編小説『降霊術師の帝国』（原題：The Empire of the Necromancers）は、1932年9月にアメリカのパルプ雑誌『ウィアード・テールズ』に掲載されました。

この作品は、作者の創造した終末大陸ゾティークを舞台にした一連の物語、通称「ゾティークシリーズ」の第一号となる記念すべき作品です。物語の冒頭では、舞台となるゾティークが、遠い未来において海底から隆起して出現した大陸であると簡潔に説明されます。

あらすじ

物語は、陰鬱なナートの島を出た二人の強力な降霊術師、ムマトゥムオルとソドスマが、まずは敬虔な死の信仰を持つティナラスの地を訪れる場面から始まります。しかし、彼らの死者をもてあそぶかのような術は、死を神聖視するティナラスの人々の激しい怒りを買い、二人はそこを追われることとなります。

やむなく、彼らは広大で荒涼とした砂漠地帯キンコルを目指します。キンコルはかつて蔓延した疫病により、ほとんどの住民が死に絶え、今や無数の骨やミイラが残るばかりの地でした。

道中、二人は骸骨となった馬とその騎手を見つけると、降霊術によって彼らを蘇生させ、自らの従者とします。まるで冒険に繰り出す皇帝のごとく、彼らはその従者を伴い、砂漠を進んでいきます。進む先々で新たな死体を見つけるたび、二人はその妖術を行使し、その結果、彼らに従う者の行列は次第に数を増していきます。

そして、かつての首都イェトゥリュレオムにたどり着いた二人の降霊術師は、そこにある夥しい数の墓所や埋葬地から、全ての死者を蘇らせます。彼らは王族のミイラすらも自らに従わせ、文字通り死者の国における皇帝として、その圧倒的な力を背景に君臨し始めます。

二人の偽りの皇帝は、その権力に溺れ、死者への過酷な支配を敷く一方で、自らは何もしないまま怠惰に身を任せ、肥え太っていきます。死者たちは機械のように彼らの命令に従っていましたが、その蘇らされた陰鬱な意識の底では、本来の安らかな死の眠りに戻ることを切望していました。

しかし、キンコルの最後の皇帝であったイッレイロは、蘇生させられた死者の中で、やがて自らの自我を取り戻します。イッレイロは、自身の祖先や哀れな臣民たちが、降霊術師によって与えられた偽りの生に囚われ、支配されている現状に激しい憤りを感じ、密かに反乱の計画を練り始めます。

そして、二人の降霊術師が警戒を怠り眠り込んだ隙を見計らい、イッレイロは同じく蘇らされた初代皇帝ヘスタイヨンに協力を求めるため、話を持ちかけます。ヘスタイヨンは生前、偉大な魔道士であり、降霊術の知識も持っていましたが、それを忌むべきものとして決して用いなかった人物でした。

ヘスタイヨンはイッレイロと共に宮殿の地下深くに降り立ち、そこに隠されていた予言の真鍮板を読み解きます。真鍮板には、キンコルが降霊術師の支配から解放され、真の死の安寧を取り戻すために実行すべき一連の儀式が記されていました。

真鍮板の啓示に従い、ヘスタイヨンは眠る降霊術師たちの首を刎ね、その死体を四つに切り裂くという儀式を行います。さらに、その死体に強力な呪いをかけ、宮殿の地下にある複雑な迷宮へと投げ落とします。こうして、キンコルの王族と民は、降霊術師の支配から解放され、再び安らかな忘却としての死を取り戻すことができました。

二人の偽りの皇帝は、死してなお安らぎを得られず、地下迷宮の中で永遠に閉じられた扉を探し求め、さまよい続けていると語り継がれています。

主な登場人物

ムマトゥムオル：ナートの島から来た降霊術師。キンコルを支配する二人の皇帝の一人となる。
ソドスマ：ムマトゥムオルと共にキンコルを支配する降霊術師。ムマトゥムオルよりわずかに年長。
ヘスタイヨン：キンコルのニンボス朝初代皇帝。生前は偉大な魔道士。死後ミイラとして蘇生させられるが、物語終盤で重要な役割を果たす。
イッレイロ：キンコルの最後の皇帝。約200年前に疫病で死去。死後ミイラとして蘇生させられるが、自我を取り戻し、降霊術師への反乱を企てる。

主な収録書籍

日本語訳は、以下の書籍などで読むことができます。

『ゾティーク幻妖怪異譚』（創元推理文庫、大瀧啓裕訳） - 「降霊術師の帝国」のタイトルで収録。
『魔術師の帝国1 ゾシーク篇』（ナイトランド叢書、荒俣宏訳） - 表題作「魔術師の帝国」として収録。
* 『リトルウィアード』『妖蛆の王国』（綺想社、荒俣宏訳） - こちらも「魔術師の帝国」のタイトルで収録されています。

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