限定的贖罪

限定的贖罪とは

限定的贖罪（げんていてきしょくざい）は、キリスト教神学、特にカルヴァン主義において重要な教義の一つです。この教義は、イエス・キリストの十字架の贖いの死が、全人類のためではなく、神によって救いに選ばれた特定の人々のためだけに有効であると主張します。この概念は、カルヴァン主義の主要な教義をまとめたドルト信仰基準の五特質（TULIP）の中にも含まれており、アルミニウス主義の普遍的贖罪の概念と対立します。

聖書的根拠

限定的贖罪の支持者は、その根拠として以下の聖句を引用します。

ヨハネによる福音書10章15節: 「わたしは自分の羊のために命を捨てる。」 この箇所は、イエスがすべての人ではなく、特定の「羊」のために命を捨てると解釈されます。
エフェソの信徒への手紙5章25節: 「キリストが教会を愛し、教会のためにご自身をお与えになったように、あなたがたも、妻を愛しなさい。」 ここでは、キリストの愛と贖いが「教会」という特定のグループに限定されていると解釈されます。

父による選び

限定的贖罪の概念は、神による選びの教理と密接に関連しています。カルヴァン主義では、神は特定の人々を救いに選ばれ、他の人々は選ばれていないとされます。この神の選びは、人間の功績や信仰に基づくものではなく、神の主権的な意志によるものとされます。

神の愛の限定: 限定的贖罪の立場では、神がすべての人を愛されるというのは、神が特定の選民を特別に愛されるという意味であり、他の人々は神の一般的な恵みしか受けないと解釈されます。

キリストの贖い

限定的贖罪の核心は、キリストの十字架の贖いがすべての人を贖ったのではなく、神に選ばれた人々だけを確実に贖ったとする点です。

贖いの確実性: もしキリストの贖いがすべての人を贖ったのであれば、すべての人々が救われるはずですが、実際にはそうではないため、キリストの贖いは特定の人々に限定されたものであると主張されます。この観点では、キリストの贖いの力は確実であり、無駄になることはありません。

聖霊の内住

聖霊は、神に選ばれた人々に与えられ、その心に宿るとされています。

聖霊の働き: コリントの信徒への手紙二5章14-15節にある「すべて」という言葉も、神に選ばれたすべての人々を指すと解釈されます。聖霊は、特定の人々を罪から解放し、神の意志に従うことができるように助けます。

すべての人への影響

限定的贖罪の教義は、キリストの贖いの効果が選ばれた人々に限定されるとする一方で、キリストの贖いが人類全体に何らかの恩恵をもたらす可能性を否定するものではありません。神の恵みは、選ばれていない人々にも様々な形で現れると考えることができます。

アルミニウス主義との対立

限定的贖罪は、アルミニウス主義の普遍的贖罪の概念と対立します。

普遍的贖罪の批判: アルミニウス主義は、キリストの贖いがすべての人々に対して可能であり、救いの機会がすべての人に与えられていると主張しますが、最終的な救いの実現は人間の自由意志に委ねられると考えます。限定的贖罪の支持者は、この考え方は救いの確実性を損なうと批判します。

まとめ

限定的贖罪は、キリストの贖いがすべての人ではなく、神によって選ばれた特定の人々のためであるという教義です。この教義は、カルヴァン主義の重要な柱であり、聖書の解釈、神の主権、キリストの贖いの有効性に関する深い議論を含んでいます。アルミニウス主義の普遍的贖罪の概念とは対立しますが、限定的贖罪は、神の愛と恵み、救いの確実性を強調する点で重要な教義です。

参考文献

『カルヴィン主義予定論』 L.ボエトナー著 田中剛二訳 小峯書店
『カルヴィニズムの五特質』エドヴィン H・パーマー著 鈴木英昭訳 つのぶえ社

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