院吉

院吉（いんきつ、生没年未詳）は、鎌倉時代後期から南北朝時代にかけて活躍した院派仏師です。

経歴

院吉は鎌倉時代末期に、同じ院派の仏師である院保や院涴らが主宰する造像事業に参加していました。特に、天龍寺における釈迦三尊像の造像では、1342年に御衣木加持（みそぎかじ）を行っています。天龍寺は、後醍醐天皇の冥福を祈るために、室町幕府を開いた足利尊氏が弟の足利直義らと共に建立した寺院であり、この事業への参加は、当時の京都における院吉の評価の高さを物語っています。

文和年間以降の院吉の作品は確認されていませんが、貞治3年7月には地頭職の沙汰に関する文書にその名が見られます。また、貞治5年4月の『石清水八幡宮記録』における院広の記事には「故院吉法印子」とあり、このことから、院吉は貞治3年から5年の間に亡くなったと考えられています。院吉の跡は、息子の院広や院遵らが継ぎました。

作品

院吉の代表的な作品としては、以下のものが挙げられます。

十一面観音坐像（法金剛院、1319年頃）：重要文化財に指定されています。像内に納入された法印・院涴以下の仏師交名の中に、院吉の名前が確認できます。
如来形坐像（愛媛県東円坊、1330年）：形状から大日如来と推定されています。この像は院吉の単独作です。
釈迦如来及両脇侍坐像（静岡県方広寺、1352年）：重要文化財に指定されています。院広、院遵と共同で制作しました。
木造釈迦如来坐像（栃木県興禅寺、1352年）：院広、院遵と共同で制作しました。
地蔵菩薩像（愛知県定光寺）：定光寺の開山の年譜に「名仏師院吉法印」の作と記されていますが、詳細については不明な点が多く残されています。

参考文献

山本勉 『南北朝時代の彫刻 唐様の仏像と伝統の残照』 至文堂〈日本の美術No.493〉、2007年6月15日、ISBN 978-4-7843-3493-3

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