陳其美

陳其美（ちん きび、字は英士）は、清末から中華民国初期にかけて活躍した政治家、軍人、そして革命家です。中国同盟会や孫文率いる中華革命党において重要な役割を担い、辛亥革命における上海での蜂起や南京攻略を成功させ、中華民国の成立に大きく貢献しました。後の国民党における有力者、陳果夫・陳立夫兄弟の叔父にあたり、また、蔣介石が革命活動に関わるきっかけを作った人物としても知られています。

生い立ちと革命への参加

祖父は郷紳、父は商人の家系に生まれた陳其美は、若い頃から学問や商業を学びました。1906年夏、変革の波が押し寄せる中国を離れ、日本に留学します。警察関連の学校で学びながら、同じ時期に日本に滞在していた蔣介石と運命的な出会いを果たしました。同年冬には中国同盟会に加わり、翌年には軍事学校で専門知識を習得するなど、革命に向けた準備を着実に進めます。

1908年に帰国すると、陳其美は革命活動に邁進します。浙江省をはじめ、北京や天津といった主要都市で同盟会の組織網を拡大すべく奔走しました。1909年夏には浙江省での武装蜂起を企図しますが、仲間の裏切りにより計画が事前に露呈し、失敗に終わります。この setback に屈することなく、1910年からは上海を拠点に活動を展開。革命思想を広めるため、『中国公報』や『民声叢報』といった新聞社を設立・運営しました。また、多様な勢力を味方につけるため、上海の地下組織である青幇などとも積極的に接触し、協力を取り付けました。1911年7月には上海に同盟会支部が発足し、陳其美はその庶務部長として、組織の中核を担うことになります。

辛亥革命での活躍

そして、1911年10月に武昌で辛亥革命が勃発すると、陳其美はこれに呼応し、上海での武装蜂起を計画します。彼は事前に上海の立憲派など幅広い層と入念な協議を行い、各方面からの支持を取り付けました。11月3日に実行された蜂起は見事に成功。わずか数日後の11月6日には、上海各界からの強い推挙を受け、滬軍都督（上海軍政府の最高責任者）に就任します。さらに、陳其美は浙江省や江蘇省の革命派勢力と連携し、清朝の重要拠点であった南京への攻撃を敢行。12月2日には南京を占領し、ここに孫文を迎える道筋を作り、中華民国の成立に極めて重要な貢献を果たしました。しかし、この激動の中で、権力争いの絡みから、同じ革命派の指導者であった陶成章を暗殺するという事件も起こしています。

民国成立後の動向と最期

中華民国が成立し、1912年3月に袁世凱が臨時大総統に就任すると、陳其美は唐紹儀内閣の工商総長（現在の商工業大臣に相当）として入閣します。しかし、まもなく唐紹儀が袁世凱の専横に反発して内閣が瓦解したため、陳其美もこれに抗議する形で辞任しました。さらに、滬軍都督の地位からも解任され、袁世凱との関係は悪化していきます。1913年7月、袁世凱の独裁に反対する「二次革命」（第二革命）が勃発すると、陳其美は上海討袁軍総司令官に推戴され、7月19日には上海の独立を宣言しました。しかし、正規の陸海軍部隊からの十分な支持を得られず、二次革命は敗北に終わり、陳其美は同年11月に日本への亡命を余儀なくされました。

日本亡命中の1914年7月、孫文は東京で中華革命党を結成します。陳其美もこの党に加入し、総務部長という要職に就任しました。その後、再び中国に帰国し、袁世凱打倒を目指す活動を継続します。1915年2月からは、上海での新たな蜂起を画策し、同年12月5日に決行しましたが、これも失敗に終わりました。1916年に入ると、袁世凱の帝政復活に反対する「護国戦争」（第三革命）が始まり、陳其美もこれに呼応して、上海などで反袁世凱の運動を続けました。しかし、革命活動に必要な資金が不足するなど、活動は低迷を余儀なくされます。そして、1916年5月18日、陳其美は上海で、袁世凱寄りの軍人であった張宗昌の手配した刺客によって暗殺されました。享年40歳（満39歳）でした。

短い生涯でしたが、陳其美は辛亥革命の成功に不可欠な役割を果たし、特に上海という要衝を革命勢力の拠点とする上で多大な貢献をしました。その急進的な手法や権力闘争における一面も指摘されますが、革命家としての情熱と実行力は高く評価されています。

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