陳那

陳那（じんな、ちんな）

陳那（Dignāga）は、5世紀から6世紀にかけて活躍した有名な仏教思想家であり、特にその論理学の貢献によって知られています。彼は南インドの婆羅門に生まれ、初めは部派仏教の一派である犢子部にて出家しましたが、その後大乗仏教に帰依し、世親のもとで唯識と論理学を学びました。彼の活動は、インド哲学の中でも特に注目されるものであり、その思想は後の論理学の発展において重要な位置を占めています。陳那の理論は、法称（ダルマキールティ）へと受け継がれ、さらに中観派の清弁にも影響を与えました。

二量説の確立

陳那が提唱した二量説は、正しさを確認するための2つの判断基準、すなわち現量と比量に基づいています。現量は「認識の正しさを判断する規範」を意味し、比量は「論理の正しさを判断する規範」とされます。彼以前の仏教哲学では、経典などの絶対的な基準が存在していましたが、陳那はこの考え方を否定しました。彼は、経典が正しいのではなく、経典に示されている内容こそが正しさの基準であるべきだと強調し、三量説を捨てる決断をしました。

また、陳那は比量が上位ではなく、現量を優位に位置づけることが重要であると述べました。これは、仏の悟りが言語を超えたものである点を考慮した新しい見解です。彼は、現量を基にした論理が最も正確であり、経典はその後に続く二次的なものであると論証しました。こうした理論は、新しい仏教論理学の基盤を築くものとなり、特にその後の瑜伽行中観派の形成にもつながりました。

著作活動

陳那の著作は、中国では「八論」として知られていますが、現存している漢訳の論文は5本に限られています。これらの著作の中には、以下が含まれます：

1. 仏母般若波羅蜜多円集要義論 - 漢訳及びチベット語訳が存在。
2. 観所縁論 - この作品では、有相唯識説を初めて明確に示しました。
3. 掌中論 - 漢訳あり。
4. 取因仮説論 - 漢訳あり。
5. 因明正理門論 - 漢訳あり。
6. 集量論（Pramāṇa-samuccaya） - 漢訳の記録はあるが、現存するものはなく、チベット語訳とサンスクリットの写本が存在します。

陳那の理論や著作は、後の唯識学派や論理学の重要な基盤を形成します。彼の思想は、仏教哲学の進展のみならず、論理学の領域にも大きな影響を与えました。彼の業績は今日においても研究され続けており、その教えを受け継いだ学派によってさらに発展しています。例えば、彼の影響を受けた瑜伽行唯識学派や法称（ダルマキールティ）を通じて、後の仏教論理学は深化していくのです。

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