世親

世親（せしん、梵: Vasubandhu）

世親は4世紀頃のインド仏教の僧で、瑜伽行唯識学派に属する重要な人物です。彼のサンスクリット名「ヴァスバンドゥ」は、玄奘の訳によって日本を含む東アジアに広まりました。それ以前は「天親」という訳名が多く用いられており、時には「婆薮般豆」や「婆薮般頭」と音写されることもあります。世親は唯識思想の大成に貢献し、後世の仏教において大きな影響を及ぼしました。

生涯と背景

世親の伝記に関する情報は多数ありますが、主な資料は真諦訳の『婆薮槃豆法師伝』や玄奘の『大唐西域記』、ターラナータの『仏教史』などです。彼は仏滅後900年に現在のパキスタンに位置するプルシャプラで誕生しました。兄は無著（アサンガ）と呼ばれ、弟は説一切有部の学者であるヴィリンチヴァッサです。家族全員が「世親」と名乗ることがありますが、ここでは次男に関連する世親を中心に説明します。

初め、世親は部派仏教の説一切有部で学び、高名な学者としてその名を知られました。しかし、兄の無著に促されて大乗仏教に転向し、その後、多くの大乗経典に関する注釈や唯識論を著しました。世親は80歳でアヨーディヤーにてその生涯を閉じたと言われています。

伝記の点での一致は、世親が説一切有部から大乗へと転向したことですが、近年の研究では、彼が有部時代に書いたとされる作品に関する新たな視点も現れています。

著作と貢献

世親によって書かれた著作は膨大であり、彼の思想は広く受け入れられました。彼の主要な著作の順番は、近年の研究によって明らかになってきており、『倶舎論』から始まり、『唯識二十論』や『唯識三十頌』など、主に唯識思想に関するものが多く含まれています。

説一切有部系の著作

世親の著作には、彼が属していた説一切有部に関連するものがあり、注釈書が含まれます。現存する著作には、特に『阿毘達磨倶舎論』が著名で、これは仏教の経典に注釈を加えた重要な作品です。その他には、無量寿経や法華経に対する注釈があり、浄土教の発展にも寄与しています。

大乗論書に対する注釈

世親はまた、多くの大乗経典に対する注釈を行い、彼の思想が後の仏教思想へと影響を与えました。特に、無著の造った『摂大乗論』に対する注釈や、弥勒の著作への解説が重要です。

唯識系の論書

唯識思想を中心に、世親の『唯識三十頌』や『唯識二十論』などが代表的な著作です。これらは後の唯識思想の基礎を築き、多くの注釈者による解釈が行われ、現代に至っています。

学術的なな視点

世親に関する研究は進んでおり、彼の著作の成立時期や、古師・新師に分ける説などが検討されています。特に、彼の二人説に関しては議論があり、彼のすべての著作が同一人物によるものであるか否かの議論が続いています。

世親はその学問的貢献により、仏教思想の発展に重要な役割を果たしてきました。彼の影響は現代においても継続しており、仏教の理論体系に大きな足跡を残しています。

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