集量論

集量論の概要

『集量論』（Pramāṇa-samuccaya）は、中世初期のインドにおける大乗仏教唯識派の重要な論文であり、論理学者・認識論者である陳那（Dignāga）によって著されました。この作品は、陳那の認識論的思索の中心をなしており、仏教の教義に従いながら知識の確実性を探求します。『集量論』は、仏教における認識論及び論理学の体系を完成させた重要な著作と見なされています。

原題は「プラマーナ」（pramāṇa）であり「量」を意味し、「サムッチャヤ」（samuccaya）は「集合」を指します。この二つの単語を組み合わせた「集量論」という標題が、その内容を象徴しています。本作は、典型的なインド哲学の論書の形式をとり、全6章から構成されています。

『集量論』は、玄奘によって中国に伝来したものの漢訳はされず、後に義浄によって漢訳されたことが知られていますが、その翻訳も早々に散逸してしまいました。現在では、2種類のチベット語訳により伝えられています。また、現在進行中の研究には、ジネードラブッディによる『Pramāṇa-samuccaya-Ṭīkā』の詳細な注釈や、梵本の復元作業が含まれています。

近年では、服部正明による第1章全体の英訳や、北川秀則による第2、3、4、6章の和訳が顕著な成果です。また、Hayesによる5章の英訳やその他の部分的な翻訳も取り組まれており、学界における注目を集めています。

内容の概説

『集量論』の内容は、全体として知識に関する独自の理論展開を行います。以下、各章の概要を紹介します。

第1章 現量

この章では、知識の取得手段として「現量」と「比量」の二つの方法が存在すると述べられます。直観的な知覚である現量は、全ての知識の出発点であり、言語や概念から解放された純粋な状態であるとされます。陳那はここで、聖典の言葉に依存しない知識の獲得方法を示し、知識の確実性を自己認識の理論に基づいて説明します。

第2章 為自比量

為自比量では、知識の観察方法としての「比量」が二つのタイプ（為自比量と為他比量）に分かれます。ここで、知識に至るための三相の理論が展開され、陳那は古典的な論理学の枠組みを新たに整理し、より明確に整理し直しました。

第3章 為他比量

この章では、自らの観念を他者に伝えるための理論が検討されます。知識を他者に伝える際に、その知識の正当性を示すための構成要素が議論の中心となります。ここで、陳那は三支作法の中で、因・喩を正確に結びつけるための方法論を提供します。

第4章 喩・似喩

第4章は、第3章のテーマを補完する形で喩について詳述します。特に同喩と異喩に対する論理的分析が行われ、言葉の使い方による認識の構造に光を当てます。この論章では、形式論理学との関連をも考察し、喩のさらなる発展の礎を築きます。

第5章 観離

言語による知識の対象の捉え方として、他者の排除について論じられます。この考えは、標準的な普遍の観念との違いにフォーカスを当て、言語活動の説明を進めます。ここで、知識の確実性に向けた方法論が見出されます。

第6章 過類

最後に、ニヤーヤ学派による論理的誤謬について考察し、それをどのように陳那の理論体系に組み込むかについて言及されます。これにより、陳那の思索が後の認識論に与えた影響も観察されます。

陳那以後

陳那の後、法称（Dharmakīrti）は『知識批判書』を著し、『集量論』における理論を展開。このように、陳那の認識論は後続の学者に多大な影響を与えてきました。彼の知見は、今日の論理学や認識論の発展においてもなお色濃く残っています。

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