陳馮富珍

陳馮富珍（マーガレット・チャン）

陳馮富珍（ちんふう ふうちん、マーガレット・チャン、英語: Margaret Chan、1947年 - ）は、香港出身の医師であり、国際公衆衛生の分野で重要な役割を果たした人物です。世界保健機関（WHO）の第7代事務局長を務め、そのリーダーシップは世界的な健康課題への取り組みに大きな影響を与えました。

経歴

陳馮富珍は、カナダのオンタリオ州立ウェスタンオンタリオ大学で文学士号（1973年）と医学学士号（1977年）を取得しました。その後、シンガポール国立大学で公衆衛生修士号を取得し、医学と公衆衛生の両分野で専門知識を深めました。

1978年に香港政府に入り、医師としてキャリアをスタートさせました。婦人と小児健康科での勤務を経て、1989年には衛生署助理署長（署長補佐）に昇進し、1992年には同副署長、1994年には署長に就任しました。香港衛生署長時代には、1997年の鳥インフルエンザ発生や2003年のSARS流行という重大な危機に対応しました。鳥インフルエンザの際には、中国本土からの鶏の輸入を禁止し、香港域内の鶏を全量処分するという大胆な措置を講じました。SARS流行時には、感染拡大を食い止めるための対策を指揮しました。

2003年8月にはWHO事務局へ転任し、伝染病対策を担当しました。2006年7月25日には、SARS対策における功績が評価され、中華人民共和国政府からWHO事務局長選挙の候補として推挙されました。同年11月8日に当選し、2007年1月4日に第7代事務局長に就任しました。

評価

陳馮富珍のキャリアは、その功績だけでなく、批判や論争も伴いました。香港では、2003年のSARS流行における初期対応の遅れが批判されました。特に、沙田のプリンス・オブ・ウェールズ病院での感染拡大を抑えられなかったことが問題視されました。この責任を問われ、2003年秋には香港立法会で喚問を受けることになりました。

一方で、1998年には公衆衛生分野での貢献が認められ、プリンス・マヒドール賞を受賞しました。

2009年から2010年にかけての新型インフルエンザの世界的流行時には、WHO事務局長としてパンデミックを宣言しました。しかし、このパンデミック宣言は、実際には他の季節性インフルエンザと大差ない程度の被害しかなく、過剰な対応だったとの批判を受けました。特に、製薬会社がWHOの意思決定に影響を与えていたのではないかとの疑惑が浮上し、欧州議会が調査に乗り出す事態となりました。この一件は、WHOの意思決定プロセスにおける透明性と独立性について疑問を投げかけるものとなりました。

両岸関係

陳馮富珍の任期中には、台湾（中華民国）の扱いをめぐって政治的な論争も生じました。2011年には、台湾を「中国台湾省」と呼ぶように内部通達を出したことが明らかになり、中華民国外交部から抗議を受けました。2016年には、台湾に「一つの中国」原則を明記したWHO総会の招待状を送付し、2017年には中国政府の意向を受け、台湾を招待しませんでした。これらの出来事は、WHOの政治的中立性に対する懸念を高めるものでした。

その他の活動

2015年9月には、中国人民抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利70周年記念式典に出席しました。2017年5月には、中国政府が推進する一帯一路国際協力サミットフォーラムにも出席するなど、中国との関係が深いことが伺えます。

陳馮富珍は、そのキャリアを通じて、国際的な公衆衛生の分野で重要な役割を果たしました。しかし、その活動は、政治的な影響や批判を免れることはできませんでした。彼女の経験は、グローバルヘルスの分野における課題と、国際機関が直面する複雑な問題を示唆しています。

関連項目

香港の対外関係
世界保健機関
SARS
鳥インフルエンザ
グローバル・ヘルス

外部リンク

「陳馮富珍任世衛總幹事」『香港政府新聞網』2006年11月8日・英語版
中国外交部 陳馮富珍紹介サイト簡体字中国語版・繁体字中国語版・　英語版
WHO
WHO陳馮富珍紹介サイト英語版・簡体字中国語版
Dr Margaret Chan nominated to be WHO Director-General,WHO News release
* Director-General election (2006), WHO

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