陸上空母離着陸訓練

陸上空母離着陸訓練（FCLP）とは

陸上空母離着陸訓練（Field Carrier Landing Practice, FCLP）とは、アメリカ海軍において、空母艦載機が陸上の滑走路を空母の飛行甲板に見立ててタッチアンドゴーを繰り返す訓練のことです。日本語では、陸上艦載機着陸訓練、陸上模擬着艦訓練などとも呼ばれます。

日本では、夜間に行われるFCLPを特に夜間離着陸訓練（Night Landing Practice, NLP）と呼ぶことがあります。アメリカ海軍では昼夜の訓練を区別しませんが、在日米軍基地周辺の騒音問題から、夜間訓練が特に問題視されるため、日本政府との間で区別されています。

FCLPの必要性

空母への離着陸は、滑走路長が短く、動揺する甲板上で行われるため、非常に高度な技術が求められます。現代の空母艦載機は昼夜を問わず出撃するため、パイロットは夜間を含めた離着陸訓練を繰り返し行う必要があります。

空母の入港中は甲板上での訓練ができないため、陸上基地の滑走路を使用してFCLPが行われます。特に空母の出港直前には、複数の機体が滑走路の周囲を旋回しながらタッチアンドゴーを繰り返す集中的な訓練が行われます。

騒音問題

FCLPは、航空機の騒音を伴うため、訓練施設周辺の住民にとって大きな負担となることがあります。特に夜間に行われるNLPは、睡眠を妨げられるなど深刻な影響を及ぼすため、騒音問題として社会問題化しています。

アメリカにおける事例

バージニア州のオシアナ海軍航空基地では、所属機の増加や機種変更により騒音が悪化し、周辺住民からの苦情が増加、訴訟に発展しました。アメリカ軍は、遠隔地訓練場（OLF）を用意し、FCLP訓練を移転することで住民の負担を軽減しています。

日本における事例

日本では、1973年以降、空母ミッドウェイの横須賀基地配備と厚木海軍飛行場の艦載機基地利用に伴い、騒音問題が顕在化しました。NLPは当初、三沢基地や岩国基地で行われていましたが、厚木からの距離が遠いため、1982年からは厚木基地でも行われるようになりました。

F/A-18の配備により騒音問題はさらに深刻化し、住民訴訟も発生しました。裁判所は国の責任を認めるものの、日米安保条約によりアメリカ軍の活動に制約を加えることはできないとの判断を下しました。

訓練移転の模索と現状

騒音問題の解決のため、NLPの厚木基地からの移転が模索されました。三宅島への新空港建設案は住民の反対で頓挫し、1991年からは硫黄島の硫黄島航空基地に暫定的に移転されました。

しかし、在日米軍は硫黄島が厚木から遠いことを理由に移転に不満を抱き、より近い場所への訓練基地設置を求めました。大黒神島へのNLP誘致計画も住民の反対で中止となりました。

その後、在日米軍再編の中で空母艦載機の岩国基地への移転が決定し、2018年までに移転が完了しました。現在、FCLP訓練は硫黄島での実施が通常運用となっていますが、硫黄島での訓練が困難な場合は、三沢、横田、厚木、岩国基地で代替運用されることになっています。

防衛省は、岩国基地から400km離れた馬毛島にFCLP訓練施設を移転することを検討しており、2019年には馬毛島を買収しています。

まとめ

FCLPは、空母艦載機パイロットの技量維持に不可欠な訓練ですが、騒音問題は周辺住民の生活に深刻な影響を与えます。騒音問題を解決しつつ、パイロットの訓練を維持するために、訓練場所の確保と騒音対策の両立が求められています。

参考文献
* 鈴木滋「在日米軍の夜間離着陸訓練（NLP）と基地移設問題」『レファレンス』平成23年2月号、国立国会図書館、2011年。

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