陽炎 (気象現象)

陽炎（かげろう）とは

陽炎（かげろう）とは、局所的な大気の密度差によって光が屈折し、もやもやと揺らめいて見える現象です。英語では「heat shimmer」や「heat haze」と表現されます。晴れた日に、アスファルト道路や自動車の屋根の上など、地表付近の温度が上昇しやすい場所でよく見られます。

陽炎のメカニズム

光は通常、直進しますが、空気の密度が異なる場所では、密度の高い方へ進む性質（屈折）があります。陽炎は、この光の屈折によって発生します。具体的には、以下の様なメカニズムで発生します。

1. 地表付近の加熱: 晴れた日中、太陽光が地表を加熱します。特に、アスファルトや金属などの物体は熱を吸収しやすく、表面の温度が上昇します。
2. 大気の密度変化: 地表付近の空気が熱せられると、体積が膨張して密度が小さくなります。温められた空気は、浮力によって上昇しようとします。
3. 乱流の発生: 上昇する暖かい空気と、周囲の冷たい空気との間で乱流が発生します。この時、密度が異なる空気が混ざり合い、複雑な流れを作り出します。
4. 光の屈折: この乱流の中を光が通過する際に、様々な方向に屈折します。この屈折によって、景色や物体がゆらゆらと揺れて見えるのです。

この現象は、光学的にはシュリーレン現象と呼ばれます。シュリーレン現象は、空気の密度変化を可視化する技術としても利用されています。

蜃気楼との違い

陽炎は、蜃気楼としばしば混同されますが、両者には明確な違いがあります。

陽炎: 密度の異なる大気が混ざり合い、小規模な範囲で発生します。乱流的な流れが特徴です。
蜃気楼: 密度の異なる大気が層状に分布し、大規模な範囲で発生します。層流的な流れが特徴で、像が鏡のように見えることがあります。

つまり、陽炎は局所的な空気の揺らぎであり、蜃気楼は層状に分かれた空気によって像が屈折して見える現象です。

陽炎が見られる場所

陽炎は、以下のような場所で見ることができます。

舗装された道路
自動車の屋根の上
砂浜
平原
焚き火の炎の上
エンジンの排熱部分

また、空気中だけでなく、水などの液体の中でも見られることがあります。

文化における陽炎

日本では、陽炎は春の季語とされています。しかし、気象条件から実際には夏に見られることが多い現象です。また、現代では舗装された道路や金属製品の増加により、より頻繁に見られるようになりました。

常に変化しては消える陽炎の様子は、捉えどころのないものや、儚いものの例えとしても用いられます。古くは万葉集にも陽炎を詠んだ歌が残されています。

今さらに雪降らめやもかぎろひの燃ゆる春へとなりにしものを

（作者不詳、万葉集巻10）

陽炎に関する研究

陽炎に関する研究は、乱流輸送現象や乱流拡散現象などの分野で進められています。また、陽炎の揺らぎの傾向分析も行われており、映像技術への応用も期待されています。

関連情報

蜃気楼: 陽炎と混同されやすい現象。密度の異なる大気が層状に分布することで、像が屈折して見える。
逃げ水: 陽炎の一種で、遠くの地面が水たまりのように見える現象。
摩利支天: 仏教における天部の一人で、陽炎を神格化したもの。
第14循環: ダラダラ陽炎景気とも名付けられた経済現象。

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