陽炎 稲妻 水の月

『陽炎 稲妻 水の月』は、漫画家・飴あられが描く、吉原遊廓を舞台にした読み切り作品集です。この作品集は、『別冊フレンド』（講談社）系の雑誌に掲載された5編の短編で構成されており、遊女たちの切ない恋や、過酷な運命に翻弄される姿を繊細に描いています。

作品のタイトルである「陽炎 稲妻 水の月」は、古語で「掴めそうで掴めないもの」という意味を持ち、作中の遊女たちの儚い想いや、叶わぬ恋を象徴しています。この言葉は、作者が前作のタイトルを考えていた際に、偶然古語辞典で見つけたものだそうです。

各話の内容

陽炎の章
口減らしのために売られた少女が、遊女「陽炎」として成長していく物語です。彼女は、自分を売った男に淡い恋心を抱きながらも、遊郭での厳しい現実に直面します。水揚げを願う陽炎ですが、その想いは叶わず、運命に翻弄されます。

稲妻の章
多くの男を手玉にとる遊女「若菜」が、純粋な若侍との出会いを通じて、自身の感情に変化を感じていく物語です。若菜は、貢ぎ物をさせるばかりの侍に最初は関心がありませんでしたが、彼の純粋さに触れるうちに、心境に変化が生じます。

水の月の章
遊郭での生活に馴染めない遊女「水月」が、いとことの再会を果たす物語です。水月は、いとこと共に遊郭を出たいと願いますが、病に冒されてしまいます。再会は束の間の喜びとなり、悲しい結末を迎えます。

宿世の糸
吉原の最高位である太夫「朱音」が、自身の秘密を知った男を誘惑しようとする物語です。朱音は、誰もが羨む美貌と地位を持つ一方で、男に心を開くことができません。彼女は、自身の孤独と向き合いながら、運命に抗おうとします。

* 夢鏡
病弱な妹のために身を売った娘「美幸」が、妹の晴れ姿を一目見たいと願う物語です。美幸は、妹のために懸命に働きます。妹の結婚を知り、彼女は足抜けを計画しますが、その道は険しく、過酷な運命が彼女を待ち受けます。

書誌情報

『陽炎 稲妻 水の月』には、「陽炎の章」「稲妻の章」「水の月の章」に加えて、シーボルトと遊女お滝の恋を描いた「長崎慕情」が収録されています。また、別作品集『ひらひら〜吉原花魁恋草紙〜』には、「宿世の糸」「夢鏡」の他に、吉原の花魁を題材にした「翡翠の鳥」「花灯籠」が収録されています。

これらの作品は、遊女たちの置かれた厳しい境遇や、切ない恋模様を通して、人間の持つ強さや弱さを描いています。飴あられの繊細な筆致によって、遊女たちの内面が深く掘り下げられており、読者の心を揺さぶる作品群と言えるでしょう。

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