隅田川 (能)

隅田川（すみだがわ）

『隅田川』は、日本の伝統的な能楽作品の一つであり、観世元雅によって創作されました。この作品は、一般的には狂女物と呼ばれるジャンルに属しますが、他の作品と異なり、悲劇的な展開が特徴です。物語は、春の物狂いの形を取りながら、愛する子どもを失った母の深い悲しみを描いています。

物語の発端は、母親が梅若丸という一人息子を人買いにさらわれてしまうところから始まります。子どもは京都から武蔵国の隅田川へと流浪し、母はその運命を受け入れがたく、子どもとの再会を夢見ています。しかし、次第に彼女は愛児の死を知り、その悲しみが物語の核となります。作品は各流派によって演じられますが、金春流では「角田川」というタイトルでも知られています。

作品構成

『隅田川』においては、主要な登場人物がいくつかいます。シテとして狂女である梅若丸の母、子方としての梅若丸の霊、そしてワキとして隅田川の渡し守が登場します。さらには、京都から来た旅の男もワキヅレとして関わります。

物語は、渡し守が最終便の舟を用意し、「大念仏があるから人が集まるだろう」と話すところから始まります。渡し守とワキヅレとの会話の後、狂女が現れ、愛する子を失った悲しい心情を表現します。彼女は「面白う狂うて見せ候へ」と渡し守に弄ばれ、狂気と悲しみが交錯します。

続く場面では、狂女がかつての恋を思い出し、歌を歌いながら愛した子どもを重ね合わせて嘆きます。渡し守はその姿に心を打たれ、彼女を舟に乗せようと促します。

横で集まる人々が何かあるかと尋ねる狂女に、渡し守は「それは大念仏だ」と答えます。哀しい話に耳を傾け、子供を人買いにさらわれ、病にかかり死んでいったという過去が明かされます。そして母親に置き去りにされた子どもが自らの死を語る物語が展開されます。

狂女は、自身の子どもが埋められている塚に気付き、途方に暮れながらも手を尽くそうとしますが、そこに子どもを見ることはできず、彼女の心の痛みは深まります。やがて念仏が始まり、狂女の心情とともに母の愛が静かに響き渡ります。最後に愛する子の声が聞こえ、その瞬間に彼女は希望を抱くものの、再会は果たされず、再び現実に引き戻される残酷さが印象的です。

狂女物について

『隅田川』の母のようなキャラクターは、「女物狂」と呼ばれ、他にも「桜川」や「百万」、「班女」などの作品と並んで「狂女物」として分類されます。このような作品は、母親の無償の愛や悲しみをテーマにしており、感情的な深さを与えています。

関連作品と影響

作品内に直接的な言及はありませんが、登場人物の吉田の名は班女を連想させます。また、『伊勢物語』第九段からの影響が見られつつ、さらに『申楽談儀』では子方の姿を見せるかどうかについての討論も行われています。江戸時代に、この梅若の物語をもとに創作された一連の作品は「隅田川物」と呼ばれ、世相や人情を反映した内容となっています。

その他の表現

歌舞伎や人形浄瑠璃にも影響を与え、多くの実演が行われてきました。また、イギリスの作曲家ベンジャミン・ブリテンが本作に感銘を受け、オペラ『カーリュー・リヴァー』を作曲したことでも知られています。『隅田川』は日本の伝統文化において重要な位置を占める作品となっています。

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