階段の聖母 (コレッジョ)

概要

『階段の聖母』（Madonna della Scala）は、ルネサンス期の画家コレッジョが1522年から1524年にかけて制作したフレスコ画です。元々はパルマの市壁、サン・ミケーレ門のベアータ・マリア・ヴェルジネ祈祷所のファサードに描かれていました。祈祷所が階段を上った先にあったことから、この名前で呼ばれています。

この作品は、パルマ市民に古くから親しまれており、美術史家ジョルジョ・ヴァザーリもその美しさを称賛しました。現在はパルマ国立美術館に所蔵されています。

作品の特徴

描かれているのは、聖母マリアが幼いキリストを抱き、穏やかな微笑みを浮かべている姿です。聖母は、キリストの神秘性に触れながらも慎ましい表情でまぶたを伏せています。一方、キリストは活発で、聖母にしっかりと抱きつき、白い布で優しく包まれています。

聖母の表情はレオナルド・ダ・ヴィンチの影響が見られるものの、色彩はラファエロ・サンツィオの聖母像の影響を感じさせます。ただし、ラファエロの作品のような洗練さよりも、ヴェネツィア派的な暖かみのある色彩が特徴的です。

コレッジョは、神聖な聖母子の絆を、愛情に満ちた日常の姿として描いています。二人の愛情は、抱擁や触れ合う手、顔、そしてキリストの体を優しく包む聖母の腕によって表現されています。キリストの折りたたまれた両脚は、二人の親密さを強調しており、全体的に曲線や蛇行を多用した柔らかな印象を与えます。漆喰の上に残る下絵の線からも、コレッジョの独特な芸術性を感じることができます。

背景には円柱の間に風景が描かれていましたが、剥落が激しく、現在はわずかにその痕跡を留めるのみです。

来歴

『階段の聖母』は、パルマの東門の市壁に描かれていたため、パルマ市民の崇敬を集め、都市の守護としての役割も担っていました。また、都市を訪れる旅行者をもてなす存在でもありました。

1542年にパルマを訪れたヴァザーリは、この作品を「パルマの市門の上に幼児を抱く聖母マリアを描いた。このフレスコ画の愛らしい色彩は見る者の目を驚かせたため、彼の他の作品を見たことがない通りすがりの旅行者の間でも大きな評判を呼んだ」と称賛しました。

このフレスコ画は、過去に二度の危機を乗り越えています。1545年には、パウルス3世が市壁の拡張を計画した際に、フレスコ画が描かれた祈祷所の周囲にも市壁が建設される予定でした。しかし、『受胎告知』と同様に、フレスコ画の保全が決定されました。1812年には、ナポレオン軍が防衛上の観点から祈祷所の破壊を命じましたが、この際フレスコ画は市壁から剥がされ、パルマ美術アカデミーに移されました。

しかし、フレスコ画の保存状態は以前から劣悪でした。1785年にパルマを訪れた旅行家イェンス・ウルフは、人々が信仰心から聖母の頭部に銀製の冠を取り付けていたため、絵画の剥落が進んでいることを嘆きました。

また、1805年にはスタール夫人の小説『コリンナあるいはイタリア』にも登場しました。小説の中では、フレスコ画は普段はカーテンで覆われており、見物人が来た時だけ公開されると描かれています。スタール夫人は、この作品を「謙虚さと優美の理想」と呼び、その傷みが激しいことにも言及しています。

ナポレオン軍が祈祷所を破壊した後、1948年には支持体の変更が行われ、キャンバスに移し替えられました。これは絵画の保全に必要な措置でしたが、変色を招くことにもなりました。

まとめ

『階段の聖母』は、コレッジョの卓越した技術と人間味あふれる表現が融合した傑作です。その歴史的な経緯も踏まえ、今もなお多くの人々を魅了し続けています。

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