雁道

雁道（がんどう/かりのみち）とは、近世以前の日本において、人々が北方に存在すると信じていた架空の土地の名前です。江戸時代には韓唐（からとう）とも呼ばれ、中国では月氐国（げつていこく）と同一視されることもありました。

雁道のイメージ

中世の行基式日本図においては、雁道は陸奥・蝦夷の北方、あるいは朝鮮半島の東側に位置するものとして描かれていました。そこは雁などの渡り鳥が飛来する極北の地であり、人が足を踏み入れたことのない、あるいは龍などの人ならざるものが住まう場所であると信じられていました。想像上の存在である羅刹国と並んで描かれることもありました。

人々は遥か北の地に、豊かな自然と神秘的な力が宿る理想郷を夢見ていたのかもしれません。雁道は、当時の人々が抱いていた未知の世界への憧憬の象徴と言えるでしょう。

海外への伝播

雁道という知識は、日本国内にとどまらず、中国や朝鮮半島にも伝わりました。日本を描いた地図の中には、羅刹国と並んで雁道が描かれているものも存在します。これは、日本独自の地理的想像力が、東アジアの文化圏においても共有されていたことを示唆しています。

雁道の終焉

しかし、江戸時代中期以降になると、正確な地理知識が普及し始めます。また、ロシアという現実の国家が南下政策を進めるにつれて、北方への関心は、空想的なものから現実的なものへと変化していきました。その結果、雁道は徐々に地図から姿を消していったのです。

雁道は、科学的な知識が未発達だった時代に、人々の想像力によって生み出された幻想の地でした。地理学の発展とともにその姿を消しましたが、かつて日本人が抱いていたロマンや、未知の世界への憧れを今に伝える存在と言えるでしょう。

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