集団選挙区制

シンガポールの集団選挙区制とは

シンガポールの国会議員総選挙で採用されている選挙制度であり、Group Representation Constituency（GRC）とも呼ばれます。この制度は、小選挙区と集団選挙区を組み合わせたもので、集団選挙区では、有権者は候補者ではなく政党に投票し、最多得票を得た政党がその選挙区の議席を総取りするという特徴があります。

集団選挙区制の概要

シンガポールの国会議員選挙では、全国を小選挙区と集団選挙区に分けて選挙が行われます。

小選挙区: 1つの選挙区から1人の当選者を選出
集団選挙区: 1つの選挙区から3～6人の当選者を選出

集団選挙区では、政党が定数分の候補者グループを立て、有権者は候補者ではなく政党に投票します。最も多くの票を獲得した政党が、その選挙区の議席を全て獲得する仕組み（勝者総取り方式）です。

この制度の大きな特徴は、各政党が選挙区ごとに中華系以外の民族の候補者を必ず1人以上含むグループを形成する必要がある点です。

導入の背景と歴史

集団選挙区制は、1988年に導入されました。その目的は、国会において中華系以外の民族の議員を一定数確保し、多民族国家としての多様性を国会に反映させることでした。

導入の背景には、当時のリー・クアンユー首相の懸念がありました。彼は、若い世代が国会の民族的バランスに関心を持たず、それが少数民族の代表不足につながることを危惧していたのです。

当初は、立候補者を2人1組のペアとし、そのうち1人を中華系以外とする案も検討されましたが、マレー系の議員からの反対意見や、少数民族議員の自尊心を損なう可能性があるという理由で採用されませんでした。最終的に、政府は集団選挙区制が最善の解決策であると判断し、導入に至りました。

制度の詳細

選挙区の区割り

選挙区の区割りは、首相が政府官報で随時指定します。選挙区の数や区割りは固定ではなく、選挙の直前に選挙区割り見直し委員会（EBRC）が政府に助言を行い、内閣が最終決定を行います。

EBRCは、各選挙区の有権者数が2万人から3万6千人ごとに1人の議員が選出されるよう区割りを行い、「一票の格差」をできるだけ少なくするように調整します。

立候補者

各政党は、集団選挙区ごとに定数分の候補者グループを形成します。グループの候補者は同一政党のメンバーでなければならず、必ず1人以上の中華系以外の民族の候補者を含める必要があります。候補者の民族は、大統領が任命した「マレーコミュニティ委員会」と「インドおよびその他のマイノリティコミュニティ委員会」が決定し、その決定に異議を唱えることはできません。

投票と当選者の決定

有権者は、集団選挙区では候補者名ではなく政党名に投票します。最も多く票を得た政党の候補者グループが、その選挙区の議席を総取りします。集団選挙区で議員が死亡・辞任した場合、原則として補欠選挙は行われません。補欠選挙は、集団選挙区の全議席が空席となった場合にのみ行われます。

制度の改正と近年の動向

集団選挙区制は、導入後も何度か改正されています。1991年には集団選挙区の議員の最大数が4人に、1996年には6人に増加しました。

2009年には、集団選挙区の平均定数を減らすために、定数6人の集団選挙区を減らす方針が示されました。また、有権者数増加に対応するために、小選挙区を増やすことも決定しました。

2011年には、初の野党による集団選挙区での勝利が実現しました。

2015年には、制度への批判を受けて、以下のような変更が行われました。

直近の総選挙で野党が勝利した選挙区の区割りを変更しない。
地域人口の変化を反映し、隣接選挙区との境界線を調整する。
与党の得票率が低い小選挙区を集団選挙区に統合する。
与党の得票率が高い集団選挙区の一部を小選挙区として分離する。

集団選挙区制の利点と問題点

利点

国会に少数民族の議員を確実に送り込むことができる。
多様な民族で構成された議員グループが、幅広い有権者の意見を拾い上げることができる。

問題点

少数民族の議員を確保するという本来の目的から逸脱しているという批判がある。
事実上、与党である人民行動党の一党支配を支持するシステムとして機能している。
小選挙区と集団選挙区で、有権者の票の重みが異なっている。
集団選挙区内で、人気のある候補者がそうでない候補者の当選を容易にするため、一部の候補者の責任感が低下する可能性がある。
候補者と有権者の関係が希薄になる。
少数民族の候補者が、制度に助けられて当選したのか、実力で当選したのかが分かりにくく、自尊心が損なわれる可能性がある。

まとめ

集団選挙区制は、シンガポールの国会における少数民族の代表を確保するという目的で導入されましたが、その一方で、与党の優位性を強化するシステムとしても機能しているという指摘があります。制度の利点と問題点を理解し、より公正な選挙制度について議論を続けることが重要です。

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