離婚後300日問題

離婚後300日問題とは

離婚後300日問題とは、日本の民法772条に規定された嫡出推定の規定により、離婚後300日以内に生まれた子供が、前夫の子と推定されてしまうことで生じる問題のことです。この規定は、離婚後の子供の父親を早期に確定し、戸籍を円滑に作成するために設けられました。しかし、現代においては、DNA鑑定によって正確な親子関係を判別できるようになったため、この規定が必ずしも実情に合わないケースが出てきています。

民法772条の規定

民法772条では、以下の2つの点を規定しています。

1. 婚姻中に妻が懐胎した子供は、夫の子と推定される。
2. 婚姻の成立から200日後、または婚姻の解消から300日以内に生まれた子供は、婚姻中に懐胎したと推定される。

これらの規定により、離婚後300日以内に生まれた子供は、前夫の子と推定されます。これは、たとえ実際の父親が別の人であったとしても、法律上は前夫の子として扱われるということです。

問題点

この規定の問題点は、以下の点が挙げられます。

DNA鑑定による親子関係と、法律上の父が異なる場合がある: 現代ではDNA鑑定によって正確な親子関係を判別できますが、民法772条の規定によって、遺伝上の父親と法律上の父親が異なるケースが生じます。
無戸籍者の発生: 離婚後に妊娠した場合など、前夫との間に親子関係がないことが明らかな場合でも、前夫の子と推定されるため、出生届を提出できない場合があります。その結果、子供が無戸籍者となってしまうという深刻な問題が発生しています。
嫡出否認の訴えの必要性: 前夫の子ではないことを証明するためには、嫡出否認の訴えを起こす必要があり、手間と時間がかかります。また、前夫が協力的でない場合は、さらに手続きが困難になります。
精神的負担: 法律上の父親が違うという事実は、子供や母親にとって大きな精神的負担となる場合があります。

解決策

民法772条の問題点を解決するために、以下の様な取り組みがされています。

2007年の法務省民事局長通達: 離婚後に妊娠したことを示す医師の証明書を添付することで、民法772条の推定を及ばないものとして取り扱うことができるようになりました。
2022年の民法改正: 嫡出推定の期間が婚姻直後からに拡大され、再婚の場合の嫡出推定の優先順位が明確化されました。また、嫡出否認の訴えを起こすことができる人の範囲と期間も拡大されました。

具体例

爆笑問題・田中裕二さんのケース: 田中裕二さんの前妻が離婚後に妊娠し、前夫である田中さんの子として出生届が出されたものの、DNA鑑定の結果、田中さんの子ではないことが判明しました。このケースは、民法772条の問題点を浮き彫りにしました。
無戸籍男性のケース: 共同通信が報じたケースでは、母親が前夫との離婚後280日後に別の男性の子を出産しましたが、民法772条の規定を考慮して出生届を出さなかったため、出生時から無戸籍状態になっている男性がいました。

背景

この問題が社会問題として認識されるようになった背景には、以下の様な要因があります。

DNA鑑定技術の進歩: DNA鑑定によって正確な親子関係を客観的に確認できるようになったことが、民法772条の規定との矛盾を際立たせました。
民法の認知度の低さ: 民法772条の規定が一般にあまり知られていないため、出産後に初めて問題が表面化することが多いです。
裁判手続きのハードルの高さ: 嫡出否認の訴えなど、裁判手続きには時間や費用がかかるため、当事者にとって大きな負担となっています。

今後の課題

2022年の民法改正によって、問題は一部改善されましたが、完全に解決されたわけではありません。今後は、より柔軟な制度設計や、無戸籍者の早期救済、また国民への法制度の周知徹底などが求められます。

外部リンク

無戸籍でお困りの方へ - 法務省

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