難波屋おきた

難波屋おきた：歌麿が描いた江戸の美

18世紀後半、江戸の浅草寺周辺に位置する茶屋で働いていた若い女性、難波屋おきた。彼女は、浮世絵師・喜多川歌麿作品のモデルとして、現代にもその名を残す存在となりました。推定では安永7年（1778年）頃生まれで、15歳頃の寛政5年（1793年）に歌麿と出会い、数々の美しい肖像画を残すことになります。

歌麿筆による難波屋おきた像

歌麿は、おきたをモデルとした作品を少なくとも15点も制作しました。その中には、有名な作品が数多く含まれています。代表的な作品として、「難波屋おきた高島おひさと首引」、「難波屋おきた仁王と枕引き」、「難波屋おきた高島おひさと腕角力」、「高名美人六家撰　難波屋おきた（大首）」などが挙げられます。これらの作品では、おきたの美しい容姿はもちろんのこと、当時の風俗や文化が細やかに表現されています。「ひばちの前の難波屋おきた」、「姿見七人化粧　難波屋おきた」、「難波屋おきた（雲母地大判）」、「難波屋おきた瀬川菊之亟（大判）」、「難波屋おきた十八歳の姿（大判）」といった作品も存在し、彼女の様々な表情や姿を捉えています。 特に有名な作品の一つに「当時三美人」があります。この作品には、おきたと共に、当時美人として評判の高島屋おひさや富本豊雛も描かれています。この美人グループを描いた作品は少なくとも4点存在し、大英博物館にも収蔵されています。

さらに、歌麿は、おきたを象徴的に描いた大首絵も制作しています。この大首絵では、おきたが茶碗を持つ姿が描かれ、彼女の職業が示唆されています。他に、立ち姿や上半身だけの肖像画も残されており、これらは浮世絵のアダチ版画などのギャラリーで鑑賞可能です。これらの作品を通じて、歌麿がおきたの美しさや魅力をどのように捉え、表現していたのかを窺い知ることができます。

その他の作家による表現

歌麿だけでなく、他の浮世絵師もまたおきたを作品に取り上げています。鳥居清長による「難波屋おきた 本会蔵」はその一例です。異なる作家による表現は、おきた像に対する多様な解釈や、当時の美的感覚の多様性を示唆しています。

研究史と参考文献

難波屋おきたに関する研究は、古くから行われています。1920年代から、様々な書籍や論文で取り上げられ、その生涯や歌麿との関わり、作品への影響などが考察されてきました。『浮世絵板画傑作集』『江戸から東京へ』『歌麿浮世絵集』『浮世絵標準画集』など、多くの文献で難波屋おきたに関する記述を見ることができます。また、近年でも、フランス国立図書館など海外の機関においても関連資料が収蔵・公開されており、多角的な研究が続けられています。これらの文献は、当時の社会情勢や文化、そして難波屋おきたという個人の存在を理解する上で貴重な資料となっています。

まとめ

難波屋おきたは、喜多川歌麿をはじめとした多くの浮世絵師によって描かれた、18世紀後半の江戸を代表する美人画モデルでした。彼女の肖像画は、単なる肖像画を超えて、当時の社会文化や美意識を反映する貴重な資料となっています。数多くの作品を通じて、現代においてもなお、人々の関心を集め続ける彼女の人生と作品は、江戸時代の美意識を探求する上で重要な手がかりを与えてくれます。今後の研究も期待されます。

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