鳥居清長

鳥居清長（1752年 - 1815年）は、江戸時代中期に活躍した浮世絵師であり、鳥居派の四代目当主として知られています。彼は、鈴木春信や喜多川歌麿といった名だたる絵師たちと並び、天明期（1781年 - 1789年）を中心に活躍し、その後の写楽や北斎、広重と並び、六大浮世絵師の一人として数えられています。

清長は、鳥居派の絵師である鳥居清満の門下に入り、その画業をスタートさせました。彼は、江戸本材木町（現在の日本橋）の書肆白子屋関口市兵衛の息子として生まれ、関市兵衛または新助という俗称で呼ばれていました。また、「新場の清長」という呼び名でも知られています。

明和4年（1767年）に細判紅摺絵でデビューし、19歳で「清長」と号しました。当初は「長兵衛」と名乗っていたとも言われています。安永年間（1772年 - 1781年）には、役者絵を中心に110点程の細判作品を制作しました。しかし、安永7年から8年頃（1778年 - 1779年）にかけて、当時流行していた勝川春章らの影響を受け、それまでの鳥居派の作風から脱却し、似顔絵的な役者絵を取り入れた錦絵へと作風を変化させました。その後、役者絵の制作は減少し、美人画や黄表紙の挿絵制作に注力しました。黄表紙の挿絵は、安永4年（1775年）から天明2年（1782年）までの間に120点以上制作し、この時期の清長の画業の中心を担いました。

鳥居派は役者絵を専門とする画派でしたが、清長の真骨頂は、美人画にありました。「美南見十二候」、「風俗東之錦」、「当世遊里美人合」などのシリーズで、彼の才能は開花しました。初期には、鈴木春信や北尾重政、礒田湖龍斎などの影響を受け、細身で繊細な美人画を描いていましたが、天明期に入ると独自のスタイルを確立し、八頭身で健康的な、どっしりとした美人画を創り上げました。大判の二枚続や三枚続といった大画面を使いこなし、現実的な背景の中に美人を群像的に配置する彼の作風は、「美人風俗画」と称され、後の大判続物発展の基礎を築きました。

また、清長は、美人画の背景に、実際の江戸風景を写実的に描いた最初の絵師としても知られています。天明期には、所作事の場面に長唄や常磐津連中などを書き込んだ「出語り図」を30点以上残しており、舞台面をそのまま取り入れた大判役者絵も描いています。肉筆浮世絵も数こそ少ないものの、優れた作品が多く、彼の才能と力量を伝えています。特に、「真崎の月見図」は、隅田川上流の真崎の渡し付近の茶店で、月光を浴びる女性たちを描いたもので、清長の代表作として知られています。

天明5年（1785年）に師である清満が亡くなると、孫の庄之助が成長するまでの間、清長は鳥居家四代目を襲名しました。その後は、美人画から離れ、鳥居派の家業である看板絵や番付などの仕事に専念し、晩年には黄表紙や芝居本、絵本などに力を注ぎました。享年64歳。墓所は墨田区両国の回向院にあります。法名は長林英樹居士。墓石は地震や戦災で失われましたが、平成25年（2013年）に回向院境内に「清長碑」が建立されました。

清長の門人には、鳥居清峰、鳥居清政、鳥居清元（2代目）などがいます。

代表作

錦絵

「大川端の夕涼」
「当世遊里美人合 たち花」
「当世遊里美人合 辰巳艶」
「当世遊里美人合 橘妓」
「当世遊里美人合 芸妓と若衆」
「風俗東之錦 町家の袴着」
「風俗東之錦 髪置」
「風俗東之錦 凧の糸」
「風俗東之錦 若君と侍女三人」
「風流三ツの駒」
「駿河町越後屋前」
「美南見十二候 三月 御殿山の花見」
「美南見十二候 七月 夜の送り」
「美南見十二候 九月 漁火（いざよう月）」
「飛鳥山の花見」
「亀戸の藤見」
「洗濯と張り物」
「隅田川船遊び」
「吾妻橋下の涼船」
「地紙売」
「座敷八景 塗桶暮雪」
「中村里好の丹波屋おつまと三代目市川八百蔵の古手屋八郎兵衛」
「女湯図」
「出語り図 三代目瀬川菊之丞と四代目岩井半四郎」

肉筆浮世絵

「海辺楼上遊宴図」
「真崎の月見図」
「詠歌弾琴図」
「駿河町越後屋正月風景図」
「待乳山納涼図」
「柳下美人図」
「女三人上戸図」
「曽我の対面図」
「暫図」
「潤色八百屋お七図」
「五郎と朝比奈図」
「草摺引図」
「夜討曽我図」
「桜下の太夫と禿図」
「矢の根五郎図」
「草摺曳朝比奈と曾我五郎」
「双蝶々曲輪日記図」

春画

「袖の巻」
「色道十二番」
「時籹十二鑑」

黄表紙

* 『名代干菓子山殿』画

清長の作品は、その卓越した描写力と独特の美人画スタイルで、今日でも多くの人々を魅了し続けています。

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