難波紘二

難波 紘二

難波 紘二（なんば こうじ）氏は、1941年6月17日生まれの日本の医師、医学者、文筆家です。長年にわたり医学の分野で教育研究に携わり、広島大学名誉教授の称号を授与されています。

来歴と学究生活

広島市に生まれた難波氏は、地元広島の地でその学問的キャリアをスタートさせました。1967年に広島大学医学部を卒業後、同大学大学院の博士課程に進学。1974年には、「松果体の実験形態学的研究」というテーマで研究をまとめ、医学博士号を取得しました。この論文は、彼の後の病理学研究の基礎となる形態学的アプローチの重要性を示すものでした。

大学院修了後、難波氏は臨床医としての経験も積んでいます。呉共済病院に勤務し、臨床病理科の初代科長として、病理診断を通じて多くの患者の治療に貢献しました。この臨床での経験は、研究者としての視点だけでなく、医学の実践的な側面を深く理解する上で貴重な財産となりました。

さらに、難波氏は国際的な学術交流にも積極的に参加しました。アメリカ国立衛生研究所（NIH）の国際奨学生に選ばれ、同研究所のがんセンター病理部に約2年間留学。この期間、彼は特に血液病理学の研究に集中的に取り組みました。世界最高レベルの研究機関での経験は、彼の専門性を一層深めると同時に、国際的な視野を広げる機会となりました。

帰国後、難波氏は広島大学に戻り、総合科学部の教授として教鞭を執りました。ここでは、医学の専門知識を活かしつつ、総合科学という枠組みの中で、多様な学問分野との融合を図りながら教育・研究活動を展開。多くの学生の指導にあたりました。2004年に大学を定年により退き、長年の功績が認められ、広島大学名誉教授となりました。

退官後の活動と文筆家として

大学を退いた後も、難波氏の研究活動は衰えることを知りません。自宅に私設の研究機関である「鹿鳴荘病理研究所」を設立し、現在も研究を継続しています。これは、アカデミックな枠を超えて、自身の関心に基づいた探求を深めたいという強い意志の表れと言えるでしょう。

難波氏の活動は、医学や病理学の研究・臨床に留まりません。文筆家としても精力的に活動しており、その著作は幅広いテーマに及んでいます。医学的な知識や病理学者の視点に加え、深い洞察と哲学的な思考に基づいた筆致が特徴です。

特に、人間の根源的な問いに関わるテーマを探求しており、性、生、死といった、生命倫理や死生学に関わる著作は多くの読者に影響を与えています。例えば、

『歴史のなかの性 性倫理の歴史』（1992年、渓水社）では、歴史を通して性の捉え方や倫理観の変遷をたどっています。
『生と死のおきて 生命倫理の基本問題を考える』（2001年、溪水社）では、現代社会における生命倫理の様々な問題について考察を深めています。
『覚悟としての死生学』（2004年、文春新書）では、死という避けられない現実に対する向き合い方について、自身の考えを展開しています。

また、医学史や科学史的な視点から歴史上の謎に迫る著作もあります。

『誰がアレクサンドロスを殺したのか?』（2007年、岩波書店）では、古代史における有名な謎について、医学的・病理学的な知見も交えながらユニークな考察を行っています。

翻訳活動も行っており、医学史や病理学史に関する重要な文献を日本に紹介しています。代表的なものとして、

マイケル・ローズ著『死者の護民官 医師トーマス・ホジキン伝』（1984年、西村書店）
エズモンド・R.ロング著『病理学の歴史』（1987年、西村書店）

などがあり、これらの翻訳は関連分野の研究者にとって貴重な資料となっています。

難波紘二氏は、臨床医、医学研究者、教育者としての確固たる基盤を持ちながら、専門分野の枠を超えて人間の生や死、倫理といった普遍的なテーマを探求し、それを分かりやすく、かつ深く考察する文筆活動を展開しています。その多岐にわたる活動は、医学と人文科学を繋ぐ貴重な存在として、多くの人々に示唆を与え続けています。

もう一度検索