雲仙観光ホテル

雲仙観光ホテル：歴史と文化が息づくクラシックホテル

長崎県雲仙市に佇む雲仙観光ホテルは、単なる宿泊施設ではなく、日本の近代建築史、観光史を語る上で重要な役割を担うクラシックホテルです。1935年、国策による外国人観光客誘致を目的として建設され、以来、数々の歴史的出来事を刻み、多くの人々を魅了し続けてきました。

始まりは国策ホテル構想

昭和初期、日本政府は外国人観光客誘致による外貨獲得を目指し、全国各地に15のホテル建設を計画しました。雲仙は、日本郵船の上海航路などにより多くの外国人観光客が訪れる場所であったことから、洋式ホテル建設の候補地に選ばれました。長崎県は、堂島ビルヂング社長の橋本喜造氏に建設と運営を委託。国有地と県有地に建設されたホテルは、1935年10月10日に開業を迎えました。翌年には雲仙国立公園が日本で最初の国立公園に指定され、ホテルは雲仙観光の中枢として発展を遂げることとなります。

豪華絢爛なホテルと歴史的出来事

近代設備を備えた雲仙観光ホテルは、内外から高い評価を受けました。ハンガリー文化使節団のメゼイ博士は、雲仙の絶景とホテルを絶賛。「雲仙の自然は実に素晴しい。南欧チロルの山の美にリビアの海の美を加えたようなものだ」と記した言葉は、ホテルの歴史を語る上で重要な証言となっています。

しかし、戦争の影はホテルの安らぎを奪いました。軍の徴用施設となり、戦後には駐留米軍に接収されました。1950年に接収が解除されると営業を再開。同年、国際観光整備法に基づき政府登録ホテルに登録されました。

その後も、ホテルは数々の歴史的出来事に彩られていきます。1954年には、人気ラジオドラマ「君の名は」のロケ地となり、1961年には昭和天皇と香淳皇后が宿泊されました。1979年には日本建築学会より近代日本の名建築に選ばれ、2003年には国の登録有形文化財に登録されました。2007年には経済産業省の「近代化産業遺産」にも認定されています。

スイス風デザインと伝統技法の融合

ホテルの建築は、日本の伝統建築とアルプス地方のスイス山小屋風のデザインを融合させた独特のものです。地下と1階は鉄筋コンクリート造、2階と3階は木造。外部はハーフティンバー技法を用い、雲仙の溶岩石と木材を組み合わせた落ち着いた雰囲気を醸し出しています。内部には、米松の床材やインドネシア産の硬材を用いた手摺など、日本の伝統的な技法と西洋風のデザインが調和しています。ドアノブの位置が欧米人の身長に合わせて設置されている点なども興味深いポイントです。設計は早良俊夫氏、施工は竹中工務店が行いました。

現代への継承

2003年には大規模なリニューアルが行われ、開業当時の姿を取り戻しました。客室の全面リニューアルに加え、浴場、ダイニング、廊下なども改修。開業時にあった図書室、撞球室、映写室なども再現されました。「新しくノスタルジア」というコンセプトのもと、歴史と現代が調和した空間が創出されています。

施設と周辺環境

ホテル内には、高い天井と広さを誇るダイニングルーム、バー、カフェテラスなどがあり、食事や休憩を楽しむことができます。周辺には、雲仙温泉、雲仙郵便局、雲仙岳特別地域気象観測所、雲仙スパハウスビードロ美術館などがあり、観光拠点としても最適です。

雲仙観光ホテルは、歴史と文化が息づく、特別なホテルです。訪れる人々を、その魅力的な空間と歴史に誘います。

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