雲南・大理遠征

モンゴル帝国による大理国征服：雲南遠征の軌跡

13世紀半ば、モンゴル帝国は勢力を拡大し、東アジアへの進出を企てていました。その中心人物の一人、クビライは、将来的な南宋征服を見据え、戦略的な拠点として大理国の征服を計画します。これは、1253年から1254年にかけて行われた大規模な軍事遠征、通称「雲南・大理遠征」です。

遠征の背景

1251年、モンケがモンゴル帝国の大汗となると、東西への大規模な遠征が計画されました。東アジア方面の総司令官にはクビライが任命され、南宋征服という大きな目標が掲げられました。しかし、クビライは性急な決戦を避け、長期戦を想定していました。その戦略の一環として、まず大理国を制圧し、南宋を孤立させることが決定されたのです。大理国は、雲南地方に位置する豊かな国であり、南宋を攻める上で重要な戦略拠点でした。

困難な遠征

クビライ率いる遠征軍は、1253年10月、ドロン・ノールを出発。東チベットを経由し、大理国へと侵攻を開始しました。モンゴル軍伝統の三軍編成で、各軍が異なるルートから進軍しましたが、雲南地方の複雑な地形と亜熱帯気候は、モンゴル兵にとって大きな試練となりました。険しい山々、深い谷、そして奔流する川が、兵站を困難にさせました。寒冷な気候に慣れたモンゴル兵は、熱帯の気候に苦しみ、多くの兵士が疫病で倒れました。記録によると、華北から持ち込まれた40万頭の軍馬のほとんどが失われ、兵士の8割近くが病に倒れたと言われています。

大理国内でも、モンゴル帝国への服従を巡り意見が対立。一部の勢力は抵抗を試みましたが、阿琮阿良など、モンゴル軍に協力した勢力もありました。彼らの中には、後にモンゴル帝国の支配下に置かれた麗江を統治する土司となった者もいます。

幾多の困難を乗り越え、クビライ率いる軍はついに大理の首都に到着。クビライは徹底的な殺戮を禁じ、降伏を勧告。結果、1254年、大理国はモンゴル帝国に降伏しました。

大理国王段興智は一時逃亡しましたが、後に捕らえられ、モンケから「摩訶羅嵯」の称号を与えられ、大理総管に任じられました。段氏はその後も、モンゴル帝国に協力し、雲南西部の統治に関わりました。また、「爨僰軍」と呼ばれる部隊を編成し、ベトナム侵攻やビルマのパガン王国との戦いにも参加しました。

遠征の影響とその後

大理国を征服したクビライは、後事を副将のウリヤンカダイに委ね、1254年末には本拠地に戻りました。しかし、この慎重な行動がモンケの疑いを招き、クビライは一時的に地位を剥奪されました。

その後、モンゴル帝国はベトナムへの侵攻を開始。タイ民族のシーインタラーティットもモンゴル軍の協力のもと、スコータイ王国を建国します。1259年、モンケが死去すると帝位継承戦争が勃発し、クビライが勝利して大汗となりました。クビライは大理国の地を庶子のフゲチに与え、フゲチは雲南王国（後の梁王国）を形成し、モンゴル帝国に服属しました。この支配は明王朝によって滅ぼされるまで続きました。

大理国征服によって、モンゴル帝国とパガン王国は国境を接するようになりました。クビライはパガン王国に服従を要求しましたが、南宋との戦いで苦戦したモンゴル帝国は、パガン王国の反乱を契機にビルマ侵攻を開始します。

雲南地方は、その後明・清両王朝によって支配され、中国領土の一部となりました。雲南・大理遠征は、雲南の歴史に大きな影響を与えた重要な出来事だったと言えるでしょう。

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