雲林院 (能)

雲林院（うんりんいん）

『雲林院』は、日本の伝統的な能楽の作品で、特に南北朝時代に制作された古作と、その後大きく改作された版本の存在があります。能楽界では、改作された『雲林院』が現在主に上演されており、本記事ではこの改作版に焦点をあてて詳述します。

あらすじ

物語は摂津国の芦屋に住む公光という人物から始まります。彼は若き日のある時期、伊勢物語の教えを受け、その情景に心を奪われていました。ある夜、公光は夢の中で束帯姿の男性と紅の袴を身にまとった女性が、木陰の美しい花のもとで『伊勢物語』を読み合う光景を目にします。夢から覚めた公光は、夢の中の場所である雲林院へ実際に足を運ぶことにしました。

雲林院に着いた公光は、夢で見た古跡が荒れ果てていることに驚きますが、昔の記憶を思い起こさせるように、花は美しく咲いていました。夢の中の二人の姿は見えなくとも、彼はその花を折り取ろうとしますが、風もないのに花が折れる様子を見て現れた老人と押し問答を繰り広げます。最終的に、老人は公光に、花を折る思いもまた花への愛情からくるものだと語りかけます。

老人は雲林院が二条后の山荘であり、彼女が公光の心を感じ取って、さらに『伊勢物語』の教えを授けるつもりだと告げます。そして、花の下で眠り夢を見るようにと勧めます。公光が老人の言葉に促されて横になると、業平の霊が現れ、公光が熱心に求めると、伊勢物語の物語が語られ始めます。業平は二条后に対する自らの恋慕の経緯を思い返し、さらにその情感を舞に表現します。

このようにして物語は、語り尽くせない恋の歴史へと深く入り込んでいき、夜が明ける頃には公光も夢から覚めることになります。

登場人物

• - 前シテ: 老人
• - 後シテ: 在原業平の霊
• - ワキ: 芦屋の公光
• - ワキツレ: 公光の従者たち
• - アイ: 北山の里人

作者と歴史的背景

古作と改作の『雲林院』の作者は不明ですが、金春禅竹による記録が残っており、特に改作版が初見とされています。古作は自身の時代の伊勢物語の注釈を元に新たな物語が形成されたものです。また、改作された現行版も同様の古注釈をもとに作られています。

上演記録としては、室町時代にはあまり演じられず、1593年には徳川家康の前での上演が確認されています。その後、江戸時代に観世流や宝生流などによって広まりましたが、近年に至っては金春流も1992年に復活上演しました。

現行曲と古作の相違点

古作の雲林院の後半と、現行板では大きな違いがあります。古作では二条后の霊と藤原基経の霊が登場し、兄弟の愛情を描く一方、改作版では在原業平のみが登場しつつ、美男の業平が舞を舞う物語となっています。此外、古作には登場しないワキツレやアイの役割が、改作版では新たに加えられ、本来のストーリーに埋め込まれています。

結論

『雲林院』は、伊勢物語をテーマにした深い人間の感情を表現する作品であり、歴史的視点から見て価値のある作品です。能楽の演目としてのみならず、日本の文化や文学を理解するための重要な要素としても位置づけられています。

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