電界放出ディスプレイ

電界放出ディスプレイ（FED）とは

電界放出ディスプレイ（Field Emission Display、FED）は、画像表示デバイスの一種で、電子放出に電界電子放出を利用しています。この技術は、熱電子放出に比べて効率が良く、低消費電力であるという利点があります。

FEDの特徴

• - 低消費電力: 電界電子放出を用いるため、熱電子放出に比べてエネルギー効率が高く、消費電力を抑えることができます。
• - 高輝度と広視野角: 画素ごとに電子放出部を持つため、明るく、広い視野角で画像を表示できます。
• - 薄型化: 電子放出部を薄く作製できるため、ディスプレイ全体の薄型化に適しています。
• - 長寿命: 発熱が少ないため、ディスプレイの寿命が長くなります。

FEDの原理

FEDの基本原理は、ブラウン管（CRT）と同じです。陰極から電子を真空中に放出し、蛍光体に衝突させることで発光させます。ただし、CRTとは異なり、FEDは各画素ごとに電子放出部を持っています。また、CRTが熱陰極を使用するのに対し、FEDは電界放出を利用するため、冷陰極方式とも呼ばれます。

電界電子放出のメカニズム

電界電子放出とは、外部から電界を印加することで、固体表面から電子が放出される現象です。電子が固体表面から外部に放出されるには、仕事関数分のエネルギーが必要ですが、外部電場を印加することで、ポテンシャルの壁が薄くなり、トンネル効果によって電子が放出されます。

具体的には、以下のプロセスで電子が放出されます。

1. エネルギー障壁: 電子が固体表面から外部へ放出されるには、仕事関数（Φ）と呼ばれるエネルギー障壁を乗り越える必要があります。
2. 外部電場の印加: 外部から電圧を加えることで、固体表面に外部電場ポテンシャルが形成されます。
3. 合成ポテンシャルの形成: 外部電場ポテンシャルと鏡像ポテンシャルが合成され、ポテンシャルの壁が形成されます。この壁の高さは仕事関数よりも低くなります。
4. トンネル効果: 電子は粒子と波動の二重性を持つため、ポテンシャルの壁をトンネル効果によって通過することができます。
5. 電子の放出: ポテンシャルの壁を通過した電子は、外部電場によって加速され、外部に放出されます。

外部から加える電圧を大きくすると、ポテンシャルの壁は薄くなり、トンネル確率は増加します。また、電界を集中させるために、円錐形やナノコイルなどの形状を持つ電極（Field Emitter Array、FEA、またはエミッタ）が用いられます。

スピントエミッタとその他のエミッタ

FEAの代表的なものとして、スピントエミッタがあります。これは、1960年代にCharles A. Spindtによって開発された回転蒸着法（スピント法）を用いて作られた円錐形状のエミッタです。他にも、Siを用いた円錐形やピラミッド形のエミッタ（Grayエミッタ）や、モールドを用いて作製された転写モールドエミッタなどがあります。

FEDの構造

FEDは、アノード（陽極）とカソード（陰極）の2枚のガラス基板の間に画素ごとに電極を配置した構造をしています。カソード側にはマイクロディップとゲート電極が設けられ、これらの電位差によってマイクロディップ先端から電子が放出されます。放出された電子は、アノード側の蛍光体に衝突し、発光します。

FEDの現状と課題

FEDは、原理的にCRTと同じ特性を持ちながら、薄型化が可能であるため、次世代のディスプレイとして期待されてきました。しかし、以下の課題により、市場への普及は限定的です。

• - エミッタの製造: スピントエミッタの製造には高度な技術が必要であり、均一な形状を再現性良く作製することが難しい。
• - 製造コスト: 大面積基板への対応や真空蒸着装置のコストが高く、製造コストが課題となっている。
• - 高電圧駆動: スピントエミッタは高電圧で駆動する必要がある。

これらの課題を解決するため、カーボンナノチューブをエミッタとして使用したFEDの開発も進められています。カーボンナノチューブは、低電圧で電子放出が可能なため、FEDの低消費電力化に貢献すると期待されています。

FEDの開発の歴史

FEDの開発は、1990年代から始まりました。初期には、キャンディセントが開発を進めており、ソニーとの共同開発も行われました。また、双葉電子工業も車載向けにFEDの開発を進めていましたが、2009年に新規受注・販売を中止しています。

他にも、ノリタケ伊勢電子、日立製作所、三菱電機などがカーボンナノチューブを用いたFEDの開発を行っていますが、製品化には至っていません。

また、キヤノンは表面伝導型電子放出素子ディスプレイ（SED）と呼ばれるFEDの一種を製品化する予定でしたが、2010年に断念しています。

FEDに関連する企業・団体

• - 双葉電子工業
• - ノリタケ伊勢電子
• - サムスン電子
• - フィリップス
• - エフ・イー・テクノロジーズ（ソニーと投資ファンドの共同出資会社、現在は清算）
• - NHK放送技術研究所
• - 産業技術総合研究所

参照資料

• - A History of Field Emission Displays

関連項目

• - 表面伝導型電子放出素子ディスプレイ（SED）
• - 蛍光表示管（VFD）
• - 有機エレクトロルミネッセンス（有機EL）
• - 映像機器
• - The Society for Information Display（SID：世界最大のディスプレイ学会）

外部リンク

• - 冷陰極ディスプレイ - [ウェイバックマシン]]（2002年2月23日アーカイブ分）（NHK技研）
• - [エフ・イー・テクノロジーズ

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