ノリタケ伊勢電子

ノリタケ伊勢電子株式会社

ノリタケ伊勢電子株式会社は、三重県度会郡に本社を構える電子デバイスメーカーです。親会社はノリタケ株式会社であり、その電子部門を担っています。同社は、蛍光表示管（VFD）やタッチ液晶モジュールを主力製品としており、小型電光掲示板や産業用機器のディスプレイなど、幅広い分野で利用されています。技術開発に力を入れており、真空電子技術をベースに、要素技術、高精細技術、半導体、ディジタル、ネットワーク技術を組み合わせた独自の技術を有しています。また、特許等の知財権も多数保有しており、SID賞や科学技術庁長官賞など、数々の賞を受賞しています。

創業の経緯

ノリタケ伊勢電子の創業は、創業者である中村正氏（元名誉会長、工学博士）が、川西機械製作所（後の神戸工業、富士通テンを経て現・デンソーテン）でブラウン管の研究開発に携わっていたことに端を発します。会社が富士通に吸収合併されることになり、ブラウン管部門が消滅する見込みとなった時、中村氏は低電圧で発光する表示素子である蛍光表示管を考案しました。京都研究所に技術者12名を集め、開発を進め、1966年に出身地である伊勢市に伊勢電子工業株式会社を設立しました。

創業当時、電卓や測定機器などのデジタル表示デバイスとしてはニキシー管が主流でした。しかし、ニキシー管は構造が複雑で、製造コストが高く、視認性にも課題がありました。中村氏は、これらの問題を解決する表示デバイスとして、蛍光表示管の開発に注力しました。蛍光表示管は、低電圧で駆動し、視認性に優れ、製造工程も比較的単純なため、低コストでの生産が可能です。この開発には、早川電機（現シャープ）をはじめとする多くの企業からの支援がありました。

会社の発展

蛍光表示管は、自己発光型であり、輝度が高く、低電圧で駆動できるため消費電力が少ないという特長を持っています。また、視認性の高い7セグメントやドットマトリクスディスプレイとして、単純な工程で生産できる利点もあります。ノリタケ伊勢電子は、神戸工業時代の研究グループのメンバーを集め、材料メーカーとも協力しながら蛍光表示管の開発を進めました。その結果、創業から1年後の1967年には、早川電機が電卓に採用することを決定しました。その後、同社は小型ブラウン管の開発も行いましたが、ニクソン・ショックの影響で生産を中止しました。

1967年5月に米国Electronics誌で蛍光表示管が紹介されると、世界中で注目を集めました。同社は、国内外で特許を取得し、製品名を「itron」としました。この名前は、現在の英語社名にも受け継がれています。日本電気や双葉電子工業と技術提携を行い、生産委託契約を結ぶことで、事業規模を拡大しました。また、多桁管の開発に成功し、材料や工法、半導体、電子回路、ソフトウェア技術など、幅広い分野への展開の原点となりました。

ノリタケグループへの参加

順調に成長を続けていた同社ですが、1970年代に入ると、日本電気や双葉電子工業との競争激化や電卓の値下げ要求などにより、経営が悪化しました。また、ニクソン・ショックに始まる円高も経営を圧迫しました。1974年、ノリタケカンパニーリミテド（現ノリタケ株式会社）の資本参加を受け入れ、子会社となりました。これにより、経営体制が強化され、海外工場の閉鎖や伊勢を拠点とする知識集約企業としての戦略が採られました。ノリタケの厚膜印刷技術も、蛍光表示管のガラス基板の供給に貢献しました。また、ノリタケが国内外のマーケティングを担当することで、同社は研究開発と生産に専念できるようになり、多くの相乗効果を生み出しました。その結果、アメリカやヨーロッパへの展開をさらに拡大し、電卓以外の分野、計測機器、電子タイプライターなどにも用途が広がりました。

現在まで

電卓への依存から脱却し、業績は回復しました。1981年には累積赤字を解消し、中村氏が社長に再任しました。産業界全体でアナログ表示からデジタル表示への転換が進んだこともあり、家電、自動車計器、オーディオ機器など様々な市場に蛍光表示管を供給しました。また、多色化や表示管と電子回路の一体化など、技術面でも大きく進歩し、総合的なデジタル表示システムのメーカーとしての地位を確立しました。

世界に先駆けてアルミ薄膜による高精細基板を量産化し、高集積半導体チップを真空表示容器内に実装する「Chip In Glass」技術の開発にも成功しました。これにより、価格競争力を確立し、高機能商品に特化した商品化戦略を推進しています。

次世代技術として、低消費電力、高速応答性に優れた電界放出ディスプレイ（FED）の研究にも取り組んでいます。2002年には、ノリタケ電子工業の蛍光表示管部門と合併し、現在のノリタケ伊勢電子株式会社に社名を変更しました。2003年には、ノリタケカンパニーリミテド本体の電子事業本部営業部門が移管され、営業業務も行うようになりました。現在、蛍光表示管を量産している国内メーカーは、ノリタケ伊勢電子のみとなっています。

2015年には、コルグの要請に応じて蛍光表示管技術に基づいた新型真空管「Nutube」を開発しました。2017年には、高感度な静電容量式タッチパネルを搭載した液晶ディスプレイモジュール「GT」を開発しました。

今後の展開

家電やオーディオ分野での蛍光表示管の採用は減少しましたが、信頼性と技術力が評価され、産業用機器、医療用機器、高度通信機器などの分野で採用が拡大しています。主な販売地域は、北米、ヨーロッパ、アジア、日本であり、先進技術を持つ地域への輸出比率が高くなっています。今後は、薄膜応用製品であるタッチ液晶モジュールをはじめ、差別化要素技術を活用した新製品開発やデジタルサイネージなどの用途展開を進めていく方針です。

沿革

1966年：伊勢電子工業株式会社設立
1967年：蛍光表示管の製造・販売開始
1974年：ノリタケカンパニーリミテド（現ノリタケ株式会社）の資本参加を受け、子会社化
2002年：ノリタケ電子工業の蛍光表示管部門と合併し、ノリタケ伊勢電子株式会社に社名変更
2019年：本社を伊勢市から度会郡に移転

事業所

工場
大宮工場（三重県度会郡）：表示管、タッチ液晶モジュールなど
大内山工場（三重県度会郡）：高精細薄膜基板
販売拠点
大宮事業所（三重県度会郡）：国内・海外
海外販社
北米：NORITAKE U.S.A., INC.
ヨーロッパ：Itron (U.K.) Ltd.、Noritake Europa GmbH. Electronics Division

参考文献

平尾光司『ノリタケ伊勢電子の発展史』専修大学社会科学研究所月報、vol.495・496、2004年10月
中村 正『蛍光表示管を世界へ』(株)アイブレーン、2000年9月

外部リンク

ノリタケ伊勢電子:Noritake Itron Corp.
i-products 応用商品
NORITAKE U.S.A., INC.
Itron (U.K.) Ltd.
Noritake Europa GmbH. Electronics Division

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