電磁波過敏症

電磁波過敏症とは

電磁波過敏症（Electromagnetic Hypersensitivity, EHS）とは、特定の電磁波に曝露されると、人によって様々な体調不良が現れると訴える症状群です。電磁場に起因する特発性環境不耐症（Idiopathic Environmental Intolerance attributed to electromagnetic fields, IEI-EMF）とも呼ばれます。

この症状を提唱する側と、国際機関や研究機関から症状を否定する見解が出ており、意見が分かれています。電磁波過敏症は、思い込みによるノセボ効果の影響も指摘されています。

概要

アメリカの医学者ウィリアム・レイによって「電気過敏症」と名付けられました。電磁波や電磁場の健康への影響については、まだ解明されていない部分があり、現在も疫学研究が進められています。

WHOの見解

世界保健機関（WHO）は、2005年の研究報告で、電磁波過敏症の症状は多様であるものの、医学的な診断基準は存在しないと指摘しています。また、二重盲検試験の結果から、これらの症状と電磁波への曝露との間に相関関係は見られないとしています。臨床的には、電磁波の低減ではなく、心理的要因や人間工学的要因への対応が推奨されています。WHOは、電磁波過敏症には科学的根拠がないとして、各国政府に明確な声明を出すことを求めています。

国際がん研究機関（IARC）の見解

国際がん研究機関（IARC）は、低周波磁場をグループ2Bに分類していますが、電磁波過敏症について直接言及しているわけではありません。また、低周波電場はグループ3に分類されています。これらの分類は、発がん性リスクを評価したものであり、電磁波過敏症の文脈で語られる電磁波とは異なるものです。IARCのリストは、発がん性リスクを評価したものであり、リスクと接触強度に関する研究要素を提供するものではありません。

スウェーデン政府の見解

スウェーデン政府は、電磁波過敏症が電磁波による疾病であるという科学的証拠はないとしています。しかし、症状を訴える人に対しては、他の環境要因の可能性を考慮し、障害として相談や支援を受けられるようにしています。

明治大学におけるメタアナリシス

明治大学科学コミュニケーション研究所の評価では、電磁波過敏症には信頼性の高い知見がなく、電磁波に対する否定的な思い込みによる自律神経失調症に過ぎないと結論付けています。少なくとも、電波帯の電磁波を使用した一般製品が発する電磁波による健康被害リスクはないとしています。

この研究では、電磁波過敏症の症状を主張する研究の理論的一貫性、予測可能性、再現性に疑義を呈しており、結果は統計的誤差範囲内の変動に過ぎないとしています。短期的な電波帯の電磁波への曝露による健康被害は起こり得ないと結論づけています。

その他の見解

強い電磁界においては、不快感や刺激作用、熱作用が生じることが知られており、国際非電離放射線防護委員会（ICNIRP）や総務省の電波防護指針によって基準値が定められています。ただし、これらの作用と電磁波過敏症の症状との因果関係は確立されていません。

電磁波と生体との関係については継続的に研究されており、総務省では「生体電磁環境に関する検討会」を開催し、リスク評価やリスク管理の総括とともに、リスクコミュニケーションの重要性を強調しています。

「電磁波」とは

電磁波過敏症の文脈で語られる「電磁波」は、通常、電波帯（3THz以下）の電磁波を指します。赤外線、可視光線、紫外線、X線、ガンマ線などの電波帯を超える電磁波には、強度に応じて人体に有害な作用があることが科学的に確立されています。本記事では、特に断りがない限り、電波帯の電磁波を指します。

症状

電磁波過敏症の症状は個人によって異なります。WHOの研究報告では、「様々な非特定症状を持つのが特徴」とされ、皮膚症状や自律神経性の症状が例として挙げられています。原因が明確でないにもかかわらず、症状は現実に存在し、日常生活に支障をきたす問題となっています。

症状の例

以下はWHOの研究報告で示されている症状の例です。ただし、WHOは電磁波そのものを要因とは認定していません。

皮膚症状
発赤
チクチク感
灼熱感
神経衰弱性および自律神経性の症状
疲労
疲労感
集中困難
めまい
吐き気
動悸
消化不良

経緯と現状

議論・事例

マイクロ波には加熱作用がありますが、加熱による副次的な効果ではなく、「電磁波そのもの」が健康に影響を与えるという研究は確立されていません。放送局や無線局の周辺住民、保守業務従事者が電磁波による被害を訴える事例はありますが、労働災害として公に認定された事例は日本ではまだありません。

社会的反応

アメリカでは、電磁波過敏症の症状を訴える住民が、Wi-Fi基地局からの電磁波を避けるために移住する事例があります。ウェストバージニア州のグリーンバンクは、電磁波が規制されている地域であり、多くの人が電磁波過敏症の影響を避けるために移住しています。

訴訟

2012年、宮崎県延岡市で、携帯基地局からの電磁波による健康被害を訴えた住民が裁判を起こしましたが、一審判決ではノセボ効果の可能性が指摘され、訴えは棄却されました。控訴も棄却されています。

原告側は、マイクロ波聴覚効果による三半規管の異常を主張しましたが、これは軍事研究に基づいたものであり、一般の携帯電話基地局周辺で起こるという研究はありません。

リスクコミュニケーションの動向

2020年には、Wi-Fi電磁波による学力低下やICT機器使用による前頭前野機能の低下に関する研究報告を基に、意見交換会が開催されました。

電磁波過敏症を障害と認定している国

スペインでは、マドリッド地裁で電磁波過敏症が障害と認定されたケースがあります。フランスでは、電磁波が原因で重度のアレルギーに悩まされていると訴えていた女性に障害者手当が支給されましたが、EHS疾病の認定には至りませんでした。

まとめ

電磁波過敏症は、電磁波に対する過敏な反応を訴える症状群ですが、医学的な合意は得られていません。多くの国際機関は電磁波との因果関係を否定しており、心理的要因や他の環境要因の可能性を指摘しています。しかし、症状を訴える人々の苦痛は現実であり、社会的な理解と支援が求められています。

電磁波に関する研究は現在も進められており、今後の進展が注目されます。

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