非電離放射線

非電離放射線とは

非電離放射線（Non-ionizing radiation: NIR）とは、原子や分子を電離させる（電子を原子や分子から引き剥がす）のに必要なエネルギーを持たない放射線のことです。国際放射線防護委員会（ICNIRP）では、「物質との相互作用の主要な形式が電離でない放射線」と定義しており、具体的には、エネルギーが10eV以下（波長にして100nm以上）の、近紫外線から低周波領域の電磁波を指します。

非電離放射線は、物質を通過する際に荷電イオンを生成することはありません。代わりに、電子、振動、回転などの量子状態をより高いエネルギー準位に遷移させる程度のエネルギーを持っています。これに対し、ガンマ線やX線などの電離放射線は、原子や分子を電離させるのに十分なイオン化エネルギーを持っています。

ただし、イオン化エネルギーの低い分子が存在する場合、比較的短波長の紫外線や可視光でも電離が起こりうるため、非電離放射線と電離放射線の境界を明確に区別することは難しい場合があります。

非電離放射線の種類

非電離放射線に分類される電磁波には、以下のようなものがあります。

近紫外線
可視光
赤外線
マイクロ波
低周波

これらの電磁波は、それぞれ異なる特徴と性質を持っています。

非電離放射線の生体への影響

非電離放射線は、生体組織内で熱エネルギーを発生させ、火傷などの非突然変異効果を引き起こす可能性があります。また、電磁波の種類や強度によっては、以下のような生物学的影響が考えられます。

光放射領域: 可視光や赤外線など、電子を励起させる領域です。
マイクロ波及び高周波領域: 人体よりも波長が短い領域で、誘導電流による発熱を伴います。
低周波、電力低周波、静電磁場領域: 人体よりも波長が長い領域で、誘導電流による発熱はほとんど起こりません。

一般的に、波長が短いほど急激な反応が起こりやすいと考えられています。

紫外線放射

紫外線は、波長の長い順に近紫外線、中紫外線、遠紫外線の3つに分類されますが、非電離性を持つのは近紫外線のみです。紫外線は、皮膚に日焼けを引き起こしたり、目に白内障を引き起こす原因となることが知られています。また、細胞にダメージを与える遊離基を発生させ、発がんの原因となる可能性も指摘されています。一方で、紫外線は皮膚上でビタミンDを生成する役割も担っています。

可視光および赤外線レーザー

可視光は、人体への影響は比較的少ないとされていますが、強い光は目に不快な刺激を与えます。また、可視光レーザーは、たとえ弱い出力であっても目に重大なダメージを与える可能性があります。強い可視光は、光脱毛などの医療目的にも利用されています。

身近な非電離放射線

太陽光には、可視光や赤外線だけでなく、紫外線も含まれています。日常生活では、電子レンジやスマートフォンなどからマイクロ波や低周波の電磁波を浴びています。これらの電磁波が健康に与える影響については、現在も研究が進められています。

まとめ

非電離放射線は、私たちの生活に欠かせない電磁波ですが、種類や強度によっては人体に影響を与える可能性があります。電磁波に関する正しい知識を持ち、安全に利用することが大切です。

参考資料

Health Physics Society Public Education website

関連項目

電離放射線
* 電磁波過敏症

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