青い花 (文芸誌)

青い花

『青い花』（あおいはな）は、1934年（昭和9年）12月に世に送り出された、日本の文学史において短くも特異な光を放つ文芸同人誌です。この雑誌の創刊において中心的な役割を担ったのは、作家の太宰治と今官一でした。特に誌名「青い花」は、太宰治自身が発案したと伝えられています。

この同人誌には、発起人である太宰治と今官一に加え、当時を代表するあるいは後に名を成す多くの才能が集結しました。創刊時の同人は総勢18名に及び、具体的には以下の顔ぶれでした。

岩田九一
伊馬鵜平
斧稜
太宰治
檀一雄
津村信夫
中原中也
太田克己
久保隆一郎
安原喜弘
小山祐士
今官一
北村謙次郎
木山捷平
雪山俊之
宮川義逸
森敦

これほど多くの多様な作家たちが一堂に会したにもかかわらず、『青い花』の運営実態は、いわば“寄合所帯”のような脆さを抱えていました。同人たちの間には確固たる結束がなく、特に太宰治と檀一雄の間に見られた、周囲を顧みない奔放ともいえる行動が、内部の調和を著しく乱しました。彼らの「身勝手な狂乱」と形容されるような振る舞いは、結果として同人組織をバラバラの状態へと追いやることとなりました。

このような内部分裂の影響は避けられず、『青い花』は当初の志とは裏腹に、わずか創刊号（第1号）を刊行したのみで、それ以降の続刊は実現しませんでした。かくして、この注目すべき文芸同人誌は、歴史にその名を刻む間もなく、短期間で活動を停止せざるを得なくなったのです。

『青い花』の廃刊後、参加していた同人の多くは、新たな活動の場を求めました。彼らのうち大半は、同時期に台頭し、日本の文壇に大きな影響力を持った文芸思潮「日本浪曼派」のグループへと吸収されていきました。しかし、同人の一人であった森敦は、日本浪曼派への参加を選ばず、異なる道を歩み、放浪生活に入ったと伝えられています。これは、『青い花』同人たちのその後の多様な運命を象徴するエピソードとも言えるでしょう。

唯一の刊行物である創刊号は、1934年12月1日に「青い花編輯所」より発行されました。この号の編輯兼発行人は、創刊の中心人物の一人である今官一が担当しています。

創刊号には、参加同人たちの渾身の作品が多数収録されています。主な収録作品は以下の通りです。

太宰治：『ロマネスク』（小説）
津村信夫：『信濃ところどころ』
中原中也：『近刊詩集『山羊の歌』より』（詩。単行本化前の詩篇）
雪山俊之：『ナポレオンとラスコリニコフ』（評論）
斧稜：『あをければ』
北村謙次郎：『われ失ふ』
久保隆一郎：『Van Gogh の画に』
青井はな：『かくれんぼ』（※同人名義での掲載かは不明）
伊馬鵜平：『広告』
檀一雄：『詩譜』
山岸外史：『一枚の絵葉書』（※同人名義での掲載かは不明）
今官一：『三つの祈り』
木山捷平：『青い花の感想』

このように、『青い花』は創刊から廃刊までわずか数ヶ月という非常に短い活動期間でしたが、太宰治や中原中也、檀一雄といった著名な作家が名を連ね、彼らの初期の作品や活動の一端を伝える貴重な記録として、日本の近代文学史における一つのエピソードとして記憶されています。その短命ぶりは、当時の同人雑誌を取り巻く環境や、作家たちの複雑な人間関係を映し出しているとも言えるでしょう。

もう一度検索