青のある断層

『青のある断層』

松本清張の短編小説『青のある断層』は、1955年に『オール讀物』で初めて発表され、のちに『詐者の舟板』に収録されました。この作品は、芸術と人間の葛藤を通じて、計り知れない創造の苦しさと喜びを描いています。

あらすじ

物語は、銀座の奥野画廊から始まります。この画廊は、著名な画家である姉川滝治の作品を多く取り扱っていました。ある秋の日、若い男・畠中良夫が画廊に訪れ、自作の絵を見てもらいたいとお願いするところから物語は動き出します。最初は無関心な態度だった奥野ですが、彼の絵に見入るうちに次第に興味を持ち、良夫に他の作品を持ってくるよう求めます。

荻窪に帰った良夫は、絵が売れるかもしれないと妻・津奈子に喜びを語ります。彼の絵は技術的には未熟なものでしたが、不思議な魅力を秘めていました。その背後には絵に対する深い愛情があり、良夫には師匠がいなかったのです。

一方、奥野は姉川滝治の近年の活動に気をかけています。彼は、かつての名声に影を落とす姉川が今や創作を断っていることを知っており、伊豆の温泉地で彼を訪れました。奥野は持参した良夫の絵を見せ、姉川の眼が興奮している様子を観察します。しかし翌朝、良夫の画布が切り刻まれた状態で見つかり、その運命は良夫の芸術的探求に大きな影響を与えました。

良夫は絵を勉強することを決意し、知人の佐伯に師事することになりました。彼は徐々に自分の技術を向上させていったものの、ある瞬間、奥野画廊に作品を持ち込むと、買い取りを拒否されてしまいました。絵を描き続けたいという彼の意欲は、挫折と苦悩の中で一層高まります。

作家の思い

松本清張は、作品の根底にある背景について触れています。上京した際の従妹の婚家先で下宿しながら、伊豆船原温泉を訪れた経験が本作に影響を与えたことを示唆しています。特に、画家が老いて創作意欲を失ったときに、どのように過去の虚名に苦しむかというテーマを描写しています。これは、著名画家の実話にインスピレーションを受けたもので、作家自身の体験や思索が形作った作品であることが伺えます。

テレビドラマ化

本作は1961年と1965年にテレビドラマとしても制作され、視聴者に広く親しまれました。特に1961年版では、松本清張シリーズの一環として放送され、河津清三郎、信欣三、手島かつこなどの多彩なキャストが出演しました。後の1965年版では、三國連太郎が主演するなど、キャストの魅力も話題となりました。

文化的背景

また、作中のキャラクターや場面には、ピカソの青の時代をはじめとする芸術的なインスピレーションが含まれていると考えられています。文学研究者である南富鎭は、主人公である無名画家・畠中良夫に清張自身の境遇が反映されていると指摘し、この作品が与える深い影響を探求しています。

『青のある断層』は、ただの短編小説以上のものを提供しており、読者に様々な思考を促します。松本清張の巧みな筆致によって、芸術の世界における葛藤と自己実現の道のりが描かれているのです。

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