船原温泉

船原温泉（ふなばらおんせん）

船原温泉は、静岡県伊豆市上船原に位置する、静かで自然豊かな温泉郷です。船原川が流れる山間の地形が、まるで船のような風景を作り出していることから、その名が付けられました。古くは「上船原温泉」とも呼ばれ、ひっそりとした佇まいが魅力の温泉地です。

歴史

江戸時代には甲の湯、乙の湯として知られ、湯治場として親しまれていましたが、交通の便が悪かったため、他の伊豆の温泉地に比べて訪れる人は多くありませんでした。しかし、その静けさと自然の美しさは、都会の喧騒を逃れて静養したい人々にとって格好の場所であり、「都風をさけて自然の美を味ひゝつゝ静養するには好適地なり」と評されるほどでした。

昭和初期には、鈴木館と船原館という2軒の旅館があり、その質素で野趣あふれる雰囲気が愛されていました。戦後も、船原川沿いの静かな環境は変わらず、天城の山々に囲まれたひなびた温泉地として、訪れる人々を癒していました。

1960年代に入ると、船原温泉は大きな転換期を迎えます。富士観光によって船原ホテルが買収され、大規模な開発が行われました。鉄筋コンクリート4階建ての本館や、お狩場焼、鱒釣り施設、クレー射撃場などが建設され、当時としては画期的な温泉リゾートとして注目を集めました。周囲からは無謀だという声も上がりましたが、石川武義の投資は成功し、最盛期には月に1万人の来客を集め、天城温泉郷の中で料理飲食税納入番付1位を独走するほどの賑わいを見せました。

しかし、1983年、船原ホテルは火災に見舞われ、本館の一部が焼失。その後、1984年に閉館し、長らくその姿を消しました。22年の時を経て、2005年に観光会社の時之栖が旧船原ホテル跡地に日帰り温泉施設「湯冶場ほたる」を開業しましたが、2024年12月27日をもって閉館しました。

泉質と効能

船原温泉の泉質は、無色透明の単純泉と苦味泉（芒硝性苦味泉）の二種類です。弱酸性で、泉温は32～90度と幅広く、硫酸ナトリウム、クロールナトリウム、硫酸カルシウムなど、様々な成分を含んでいます。

効能としては、古くから「疥癬、打撲、損傷」などの皮膚病や外傷、「梅毒、皮膚病、腫物類」、「関節病生殖器病、慢性皮膚病」、「神経痛・リューマチ」、「婦人病・ヒステリー」などに効果があるとされてきました。特に婦人病やヒステリーには名湯として知られ、神経系の病気、リューマチ、慢性湿疹、胃腸病、眼病などにも良いとされています。

伝説

船原温泉には、古くから様々な伝説が語り継がれています。源頼朝もしばしば入浴したと伝えられるほか、以下のような伝説が残っています。

瘡岩さん: 痘瘡を患った岩さんという男が、死後、自分の墓を詣でる人に皮膚病の治癒の力を与えたいと遺言し、その墓は「瘡岩さんの墓」として、皮膚病に悩む人々の信仰を集めています。
鍋かむり塚: 首から上にひどい瘡を患った男が、死後、古鍋をかぶせて埋めてほしいと頼み、自分の墓を詣でる人に同じ病気の治癒の力を与えたいと願ったという伝説があります。その墓は「鍋かむり塚」として今も残っています。
* 大久保長安の夢: 金山開発で知られる大久保長安が、夢の中で鳳凰に乗った老人から湯の湧くところに金が眠っていると教えられ、その夢を信じて金脈を発見したという伝説があります。かつて船原ホテルに設置されていた純金風呂は、この伝説の鳳凰を模したものでした。

船原温泉は、その豊かな自然と歴史、そして効能豊かな温泉で、訪れる人々を癒し続けています。

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