青岩院

青岩院（虎御前）

青岩院は、永正9年（1512年）に生まれ、永禄11年5月7日（1568年6月2日）に生涯を終えたとされる、日本の戦国時代を生きた女性です。越後の名将として名高い上杉謙信（長尾景虎）の生母であり、「虎御前」という通称でも広く知られています。

出自と夫との関係

彼女の出自については、いくつかの歴史史料に記録が見られますが、その詳細は必ずしも明確ではありません。『上杉家御年譜』や『謙信公御書集』といった文献では、栖吉城主である長尾房景あるいは長尾顕吉の娘であったと記されています。しかし、その本名は伝わっておらず、夫である長尾為景との関係性も、正式な妻である継室であったのか、あるいは側室（妾）であったのかは判然としません。

為景の嫡男である長尾晴景の母は、守護である上杉氏の一門、上条上杉家出身の女性でした。これに対して、虎御前は同じ長尾氏の出身とはいえ、守護代を務めた長尾本家とは異なる分流である栖吉長尾家（古志長尾家）の出身であったため、為景の正室としての位置づけではなかった可能性が高いと考えられています。むしろ、女性家臣団である女房衆の一人であり、為景の手がついて子をなした側室であったという見方が有力視されています。

「虎御前」の通称と信仰

彼女が「虎御前」と呼ばれるようになった背景にも諸説あります。一般には、彼女の子である長尾景虎（後の上杉謙信）の幼名が「虎千代」であったことに由来し、後世になってそのように呼ばれるようになったと考えられています。

虎御前は非常に信心深い人物であったと伝えられています。その篤い信仰心は、子の景虎、すなわち後の上杉謙信の生涯にわたる信仰にも大きな影響を与えたとされています。

晩年と没年に関する異説

夫である長尾為景が没した後は、世俗を離れて仏門に入り、為景の菩提を弔いながら余生を送ったと伝えられています。

虎御前の没年は永禄11年（1568年）とされていますが、この没年については疑義も呈されています。永禄6年（1563年）、当時上杉輝虎と名乗っていた謙信が作成した願文の中に、自身が幼くして父母を失ったことを示唆する表現があるからです。もしこの記述が事実であれば、永禄11年まで虎御前が存命していたとは考えにくく、願文の作成時期から見て、より早期に亡くなっていた可能性が指摘されています。

父親についての補足と子の入嗣説

虎御前の父親とされる人物については、前述の栖吉城主である長尾房景または顕吉の娘とするのが通説です。しかし、長尾政景の祖父にあたる上田長尾家の当主、長尾顕吉と同一人物ではないかという説も存在します。ただし、多くの史料で「栖吉城主の娘」であることが共通して記載されており、通説としては古志長尾家の長尾房景の娘であると考えられています。また、文献によっては房景の官途名が「豊前守」とされているのに対し、顕吉の官途名は「肥前守」であり、これらの官途名が同じ長尾一族の中で混同されて伝えられた可能性も指摘されています。

虎御前の生涯に関連して、上杉謙信の幼少期に関する一つの説があります。栃尾城は、虎御前の実家とされる古志長尾家の勢力範囲にあったとされています。夫を失った虎御前が、子の景虎を伴って古志の地に戻り、景虎が実家の長尾房景の後継者として古志長尾家に入嗣したという説も存在します。これは、後の謙信の栃尾城入りの背景を説明する可能性のある見方です。

創作との関連と墓所

著名な歴史小説である海音寺潮五郎の『天と地と』には、袈裟御前という人物が登場しますが、これは作者が佐渡おけさから着想を得て創作した架空の人物であり、史実上の青岩院（虎御前）とは関連がありません。

現在、青岩院の墓所とされる場所は、新潟県上越市にある春日山林泉寺の裏山へ徒歩で20分ほど進んだ、かつての宮野尾という集落の傍らに静かに佇んでいます。戦国時代の越後において、重要な人物の母として波乱の時代を生きた虎御前の生涯は、今も様々な研究や物語の対象となっています。

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