青柳幸一

青柳幸一（あおやぎこういち、1948年 - ）は、日本の著名な法学者であり、特に憲法を専門としていました。彼は、人権の基礎理論、個人の尊厳、社会的少数者の人権、そして人権の司法的保障に関する研究で知られています。慶應義塾大学で博士号を取得し、長年にわたり大学で教鞭を執る傍ら、司法試験考査委員としても重要な役割を果たしました。しかし、そのキャリアは、司法試験問題の漏洩事件によって大きな転換期を迎えます。

経歴

青柳は獨協大学法学部を卒業後、慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程を単位取得満期退学しました。その後、横浜国立大学大学院国際法学研究科助教授、教授を経て、筑波大学法科大学院教授に就任。2002年から2015年にかけては、旧司法試験及び新司法試験の考査委員（憲法）を務め、特に新司法試験では主査として試験問題の作成と採点に深く関わりました。2011年からは明治大学法科大学院教授も兼任しましたが、後述の事件により、その職を解任されています。

また、著名な憲法学者である芦部信喜の著作にも関与しており、論文集の索引作成や刊行に協力しました。

人物像と教育理念

青柳は、大学における教育の重要性を強く認識しており、法科大学院の設立に際しては、「大学は理性の府であるべき」と主張しました。彼は、自己保身や事勿れ主義が蔓延する社会を変革し、真に「基本的人権を擁護し、社会正義を実現する」法曹人の育成を目指していました。また、司法試験の合格者数に枠を設けることには反対の立場を取り、法科大学院でしっかりと学び、一定の成績を収めた者は全員合格とすべきだと主張しました。

法科大学院の授業においては、教員が自説を押し付けるような一方的な講義や、判例を批判するだけの講義を戒めました。また、教育者としての責任感と倫理観の重要性を強調し、学生の正当な権利と利益を尊重すべきであると説きました。

著書である『憲法』の表紙には、自らデザインしたカラーリリーの絵が描かれています。これは、彼が「愛情」という花言葉を持つカラーの花を、読者にプレゼントしたいという思いを表しています。

大学教員としての青柳は、そのプライドの高さから「ブルー卿」というニックネームで呼ばれていました。また、考査委員という立場から、学生からの人気は高かった一方で、学生に著書のサインを求めたり、特定の女子学生と親密な関係を持つなど、変わった一面も持っていました。さらに、研究室は学生にとって「聖域」であり、入室を許される学生は限られていたとされています。

司法試験問題漏洩事件

青柳のキャリアは、2015年5月の司法試験における問題漏洩事件によって大きく転落します。彼は、自身が作成した試験問題を教え子の女性受験者Aに漏洩させたとして、考査委員を解任され、国家公務員法違反（守秘義務違反）で刑事告発されました。この事件は、法務省が司法試験の漏洩で刑事告発する初の事例となりました。

漏洩の発覚は、Aの答案が模範解答例と酷似し、他の受験生よりも突出して完成度が高かったことがきっかけでした。青柳は当初、漏洩を否定しましたが、その後、漏洩の事実を認めました。しかし、大学の調査に対しては、漏洩相手を「詳しく話せない」として、特定を遅らせる事態を招きました。

青柳は、新司法試験が導入された2006年から憲法の試験問題作成と採点を担当する考査委員を務め、漏洩が発覚した2015年には、13人の考査委員をまとめる主査という重要な立場にありました。学生によると、彼は考査委員の職務について、「やめたいけど、法務省が代わりはいないと言う」とよく言っていたといいます。また、元考査委員からは「研究者としての実績は乏しく、考査委員という肩書きは彼にとって大きなうまみだった」と指摘されています。

刑事裁判の過程で、青柳とAは2013年から交際しており、Aが大学院修了後も交際が続いていたことが明らかになりました。また、青柳はAに対して「ベッドの中で泣くAを見て、次は絶対に合格させてあげなければと思った」と供述しました。

青柳は、2015年2月上旬から5月上旬にかけて、Aに短答式試験の憲法の問題をすべて教え、同年3月には論文式試験の問題を教え、添削を行っていたことが判明しました。その結果、Aの論文試験は満点に近い点数を取り、短答試験の憲法も満点でした。青柳は、証拠隠滅のためにAに添削答案を持ち出さないように指示するなど、周到な対策を行っていましたが、Aが自分で添削内容を再現して保存していたデータが漏洩の証拠となりました。

この事件は、漏洩が見過ごされる可能性を示唆するものであり、司法試験制度の信頼性を揺るがす深刻な問題となりました。

授業での短答式問題漏洩疑惑

さらに、青柳は授業でも司法試験の論点を漏らした疑いが浮上しました。2015年の司法試験の2日前、明治大学法科大学院の授業で、財産権に関する論点が「今年の司法試験の短答式で出題されている」と発言したのです。明治大学の内部調査の結果、青柳が授業中に特定の条文を挙げて「今年の短答式に出題されている」と発言した事実が認められました。実際、その条文は試験に出題され、青柳の著書を読めば容易に解答できる内容でした。しかし、その授業を受けていた学生は同年の司法試験を受験しておらず、実際の受験生には影響はなかったとされました。

関係機関の対応

司法試験委員会は、漏洩の可能性が明らかになった2015年9月5日にAを採点対象から除外、司法試験と司法試験予備試験の受験を5年間禁止しました。また、漏洩はA一人のみであり、合格者の判定に影響はなかったとされました。

上川陽子法務大臣は、この事件について「誠に遺憾」と述べ、再発防止のためにワーキングチームを設置することを表明しました。

明治大学は、青柳が漏洩を認めたことを発表し、同年9月12日付で懲戒免職処分としました。法務省は、2016年の司法試験考査委員から法科大学院教員を外す措置をとりました。

刑事裁判

2015年10月7日、東京地検特捜部は、青柳を国家公務員法違反（守秘義務違反）で在宅起訴しました。Aは、漏洩を働きかけた証拠がないとして刑事責任を問われませんでした。

2015年12月24日、東京地方裁判所は、青柳に対して懲役1年、執行猶予5年の有罪判決を言い渡しました。判決では、青柳の動機や経緯が強く非難され、漏洩の範囲や程度が甚大であることが指摘されました。被告人・検察双方が控訴しなかったため、この判決が確定しました。

著作

青柳は、以下の著作を出版しています。

『個人の尊重と人間の尊厳』(尚学社・1996年)
『人権・社会・国家』(尚学社、2002年)
『ベーシック・ラーニングロースクール憲法』(戸松秀典との共編) (第一法規、2004年)
『憲法における人間の尊厳』(尚学社・2009年)
『わかりやすい[憲法]－警備業実務必携』(立花書房・2013年)
『憲法学のアポリア』(尚学社・2014年8月)
『憲法』(尚学社・2015年2月)

論文

「教師による生徒へのセクシュアル・ハラスメントと学校区の責任」

外部リンク

明治大学法科大学院　青柳幸一
上記サイトのログ(インターネットアーカイブ)
青柳幸一 - KAKEN 科学研究費助成事業データベース
論文一覧（KAKEN、CiNii）

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