個人の尊厳

個人の尊厳:普遍的な人権と法の根幹



個人の尊厳、あるいは個人の尊重とは、全ての人間が、互いを人間として尊重し合うべきという法原理です。英語ではdignityと表現され、日本法においては、あらゆる基本的人権、特に平等権を直接的に支える、最高の価値基準と位置付けられています。世界的な視点、歴史的な視点からは、国家権力に正当性を与える自然権として理解されています。

この原理の文化的背景には、人格尊重主義や個人主義がありますが、直接的なきっかけは市民革命でした。市民革命以前は、個人国家権力に圧倒され、容易に虐げられる状況が存在していました。しかし、革命において市民は団結し、絶対王政を打破しました。この経験から、個人国家よりも弱く、法の支配によって保護される必要があるという考え方が強まりました。特に、国家の警察権力を脅威と感じる際には、この考え方はより妥当性を増します。

しかし、経済力を物差しにすると、個人は常に国家に圧倒されているとは限りません。歴史を振り返れば、ロスチャイルド家、クーン・レーブ社、オートバンク、JPモルガンといった個人銀行が、数多くの国債やECSC債の引受を主導した事例があります。また、多くの国際カルテルにも、個人に準ずる私企業が参加しており、国家独占禁止法によって十分に規制できていない側面もありました。

国際法における個人の尊厳



国際連合憲章1945年調印・発効)は、基本的人権、人間の尊厳と価値、男女及び大小各国の同権に関する信念を再確認し、人間の尊厳を基本原理としています。世界人権宣言1948年国連総会採択)も、前文において、人類社会の構成員の固有の尊厳と平等で譲ることのできない権利を承認することを世界における自由、正義及び平和の基礎とし、1条では「すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である」と明記しています。

国際人権規約1966年採択、1976年発効)も同様の流れを受け継ぎ、経済的、社会的及び文化的権利を定めたA規約と、市民的及び政治的権利を定めたB規約の両方において、これらの権利が人間の固有の尊厳に由来することを認めています。

日本における個人の尊厳



日本においては、1947年施行の日本国憲法が、個人の尊厳を基本原理としています。憲法13条は「すべて国民は、個人として尊重される。」と明記し、24条2項では、婚姻や家族に関する事項について、「個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して」法律が制定されるべきことを規定しています。

日本国憲法の三大原理である国民主権、基本的人権の尊重、平和主義も、個人の尊厳を根拠としています。すなわち、全ての個人が尊重される政治体制として国民主権が、全ての個人が持つ基本的人権の尊重が、そして平和な国家建設が、個人の尊厳を保障するために必要とされています。憲法学の通説では、自由の保障と国民の制憲権が個人の尊厳によって根拠付けられるとされています。

その他の法令における個人の尊厳



日本国憲法個人の尊厳を基本原理としたことを受け、多くの法令が目的規定などに個人の尊厳、個人の尊重、人格の尊重、基本的人権、個人の価値の尊重といった概念を明記しています。民法医療法社会福祉法、障害者基本法など、多岐にわたる法律で、個人の尊厳が尊重されるべきことが謳われています。さらに、個人の尊厳を侵害しないよう配慮すべき旨の規定を持つ法律も多く存在します。

個人の尊厳の重要性



個人の尊厳は、法の支配民主主義、平和な社会を実現するための基盤となる重要な概念です。今後も、個人の尊厳を尊重し、あらゆる個人人間として平等に扱われる社会を目指していく必要があります。

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