静脈血栓塞栓症

静脈血栓塞栓症（VTE）について

静脈血栓塞栓症（Venous Thrombosis; VTE）は、肺血栓塞栓症（Pulmonary Embolism; PE）と深部静脈血栓症（Deep Vein Thrombosis; DVT）を包含する症状群です。DVTは、下肢や上腕の静脈内に血栓ができる状態で、血流が滞ることにより静脈が狭窄または閉塞し、炎症を引き起こします。多くの場合、無症状ですが、長時間同じ姿勢を保つことが一因とされており、特に飛行機内での発症が知られています。このため、エコノミークラス症候群という名称が使用されることがありますが、この呼称は誤解を招くため、旅行者血栓症のような名称が提案されています。

発症のメカニズム

静脈血栓塞栓症は入院患者の主な死因の一つであり、血栓が血流に乗って肺動脈に詰まり、肺塞栓症を引き起こすことがあります。肺動脈が詰まることで血液の流れがストップし、ガス交換が行えなくなります。結果的に呼吸困難や脈拍数の上昇が見られることが多く、息苦しさや鋭い痛みを伴い、場合によっては失神やショック、さらには死亡することもあります。

分類

肺血栓塞栓症（PE）

特に危険度が高い病気であり、塞栓を引き起こした血栓が大きいと即死のリスクがあります。また、肺組織の壊死、つまり肺梗塞が発生することもあり、その割合はおおよそ10%から15%です。

深部静脈血栓症（DVT）

これは、体内の深部静脈、特に大腿静脈や膝窩静脈に血栓が形成される病気で、PEの主な原因となります。DVTは無症状であることが多いですが、発症すると下肢の腫れや痛み、色調の変化などの症状が見られます。特に左下肢に多く見られる傾向があります。

原因とリスク要因

血栓の形成は静脈血の鬱滞や血液の凝固亢進が主な原因です。長時間同じ姿勢でいることは血流の停滞を招き、また脱水や下肢静脈瘤、手術後の長期臥床、ホルモン療法（エストロゲン製剤）の使用などもリスク因子です。

リスク因子は後天的なものだけではなく、遺伝的要素も影響します。抗リン脂質抗体症候群などの原因もあるため、特に注意が必要です。特定の環境条件（例：湿度の低い飛行機の中）は発症リスクを高めます。

予防

静脈血栓塞栓症の予防は非常に重要です。長時間同じ姿勢でいることを避け、定期的に足を動かすことが勧められます。また、水分補給は適切に行い、利尿作用のある飲み物の摂取は控えるべきです。特にリスクの高い患者には、弾性ストッキングや空気圧迫装置の使用も考慮されるべきです。

検査と診断

肺塞栓症の診断にはさまざまな検査が用いられます。肺血流シンチグラムや造影CT、動脈血液ガス分析などが行われ、特に造影CTが現在は最も有利とされています。D-ダイマーの測定もスクリーニングに用いられています。

治療

治療は抗凝固療法と血栓溶解療法に分かれます。抗凝固療法ではヘパリンやワルファリンが使用され、血栓のさらなる形成を防ぎます。一方、血栓溶解療法は緊急を要するケースで行われ、血栓を迅速に溶かすことを目指します。血管内治療や手術も選択肢の一つとして残されています。

予後と疫学

静脈血栓塞栓症の死亡率は著しく高く、特に発症後すぐに症状が現れることが多いです。予防が効果的であれば生命予後は良好ですが、再発のリスクが常に存在します。日本では年間約4,000例の報告があり、増加傾向にあるとのことです。

環境要因や先天的・後天的要因を考慮し、継続的な注意が必要です。

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