血液ガス分析

血液ガス分析：詳細解説

血液ガス分析（BGA）は、動脈血中の酸素分圧（PaO2）、二酸化炭素分圧（PaCO2）、pH、および重炭酸イオン濃度などを測定する検査法です。これらの指標から、患者の酸素化状態、呼吸機能、酸塩基平衡の状態を評価し、呼吸器疾患やその他の重篤な疾患の診断と治療に役立てられます。

採血方法

BGAでは、動脈血を採取する必要があります。最も一般的な採血部位は橈骨動脈ですが、大腿動脈や上腕動脈を使用することもあります。医師または看護師などの医療従事者が、滅菌された注射器と細い針を用いて採血を行います。橈骨動脈を選択する理由は、アクセスが容易で、圧迫止血が容易であるため、血管閉塞のリスクが少ないためです。採血前にアレンテストを行うことで、十分な側副血行路があるかを確認します。

採血時には、空気の混入を厳格に避ける必要があります。空気の混入は測定値に影響を与え、結果の正確性を損ないます。採血後、サンプルは適切な容器に保存され、迅速に分析室へ搬送されます。

採血時の酸素投与量や人工呼吸器の使用状況などの情報は、検査結果の解釈に重要となるため、必ず記録しておく必要があります。特に、人工呼吸器を装着した直後の血液ガス分析は、恒常状態ではないため、結果の解釈には注意が必要です。

測定と分析

血液ガス分析には、専用の分析装置が使用されます。分析装置は、血液サンプルからPaO2、PaCO2、pHを直接測定し、重炭酸イオン濃度などのその他の指標を計算によって算出します。測定には通常、数分かかります。

近年では、ポイントオブケア（POC）検査として、臨床現場で迅速に分析できる機器も普及しており、迅速な治療判断に役立っています。

多くの現代的な血液ガス分析装置は、PaO2、PaCO2、pHに加えて、以下の項目も測定できます。

動脈血酸素飽和度（SaO2）
重炭酸イオン濃度
乳酸
ヘモグロビン
電解質
異常ヘモグロビン（カルボキシヘモグロビン、メトヘモグロビンなど）

これらの追加情報は、患者の状態をより詳細に評価するために役立ちます。

測定項目と基準値

測定される主な項目と、一般的な基準値は以下のとおりです。ただし、分析装置や検査室によって基準値の範囲は異なる場合があります。

PaO2 (動脈血酸素分圧): 80-100 mmHg
PaCO2 (動脈血二酸化炭素分圧): 35-45 mmHg
pH: 7.35-7.45
重炭酸イオン濃度: 22-26 mEq/L
SaO2 (動脈血酸素飽和度): 95-100%

ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式

血液のpHは、ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式を用いて計算することができます。この式は、血液中の重炭酸イオン濃度と二酸化炭素分圧の関係を示しており、酸塩基平衡の状態を理解する上で重要です。

$$pH = 6.1 + log_{10} rac{[HCO_3^-]}{0.03 imes P_{aCO_2}}$$

ここで、

pH は血液のpH
[HCO3-] は重炭酸イオン濃度
PaCO2 は動脈血二酸化炭素分圧

です。

酸塩基平衡の解釈

血液ガス分析の結果を解釈する際には、PaCO2とpH、および重炭酸イオン濃度の変化を総合的に検討する必要があります。これらの指標の変化パターンから、呼吸性アシドーシス、呼吸性アルカローシス、代謝性アシドーシス、代謝性アルカローシスのいずれの状態かを判断することができます。

臨床応用

BGAは、呼吸器疾患、循環器疾患、腎疾患、代謝性疾患など、様々な疾患の診断と治療に利用されます。特に、集中治療室では、患者の状態をモニタリングし、治療効果を評価するために頻繁に実施されます。

心臓手術患者の管理

心臓手術においては、低体温人工心肺下での血液ガス管理に、pH-stat法とα-stat法が用いられます。pH-stat法は、血液のpHを一定に保つ方法で、α-stat法は、PaCO2とpHを正常体温における値に補正する方法です。それぞれの方法には利点と欠点があり、手術の種類や患者の状態に合わせて適切な方法が選択されます。

まとめ

血液ガス分析は、患者の酸素化状態、呼吸機能、酸塩基平衡の状態を評価するために非常に重要な検査です。正確な採血、迅速な分析、そして結果の的確な解釈が、適切な治療を行う上で不可欠です。

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