面影渡り鳥

面影渡り鳥

「面影渡り鳥」（おもかげわたりどり）は、歌手・橋幸夫が1996年5月22日にビクターエンタテインメント（旧ビクターより分社化）からリリースしたシングル作品である。CD（型番：VIDL-11015）とカセットテープ（型番：VISL-10192）の二種類の形態で発売された。

概要

本作は、長年所属したリバスター音楽産業から古巣のビクターレコードへ復帰を果たした橋幸夫が、復帰第一弾として発表した楽曲である。特に注目されるのは、そのジャンルが股旅演歌であることだ。橋幸夫はかつて股旅物を得意としていたが、シングルとして本格的な股旅作品を発表するのは、1978年の「股旅'78」「またたびの詩」以来、実に18年ぶりとなる。リバスター時代には股旅をテーマにしたオリジナルアルバム『日本列島三度笠』は存在するものの、シングル表題曲としては発表されておらず、本作が復帰後初の、そして久しぶりのシングル股旅作品となった。

楽曲の制作には、橋幸夫にとって特に縁の深い面々が名を連ねる。作詞は本作が初めての共演となった荒木とよひさ氏、作曲は長年の恩師であり、橋幸夫のデビュー以来多くの楽曲を手掛けた吉田正氏、編曲は荒木圭男氏が担当した。

特筆すべきは荒木とよひさ氏による歌詞である。股旅演歌に頻出する「三度笠」「草鞋」「カッパ」「ドス」といった慣用的な言葉を一切用いることなく、股旅の世界観や、放浪者の心情、情景を見事に描き出している。この斬新な試みが成功し、完成した詞を読んだ作曲者の吉田正氏は「さすがにうまい」と感嘆したと伝えられている。

本作の作曲者である吉田正氏は、発売の翌年（1997年）に惜しくも逝去しており、本作は橋幸夫に提供した最後の楽曲、すなわち遺作となった。「面影渡り鳥」はビクターヒットを受賞するヒットとなり、これにより、国民栄誉賞も受賞した吉田正氏にとって、これが生涯最後のヒット賞受賞作品という栄誉も加わることとなった。

カップリング曲の「以蔵残月」（いぞうざんげつ）も、本作と同様の制作陣（作詞：荒木とよひさ、作曲：吉田正、編曲：荒木圭男）によって手掛けられている。この楽曲は、幕末の土佐藩郷士であり、「人斬り以蔵」として広く知られる岡田以蔵を題材としたものである。

なお、作詞を担当した荒木とよひさ氏と橋幸夫は、その後も共演を続けており、例えば「花火音頭」（2006年）や「長州にて候」（2015年）といった楽曲で再びタッグを組んでいる。

収録曲

1. 面影渡り鳥
作詞：荒木とよひさ
作曲：吉田正
編曲：荒木圭男
2. 以蔵残月
作詞：荒木とよひさ
作曲：吉田正
編曲：荒木圭男

収録アルバム

「面影渡り鳥」は、以下のアルバムを含む複数のベスト盤やコンピレーション盤に収録されている。

『＜BEST ONE＞』（1996年10月23日）
『＜TWIN BEST＞』（1998年11月06日）
『橋幸夫全曲集』（1999年10月21日）
『橋幸夫が選んだ橋幸夫ベスト40曲』（2000年10月04日）
『元祖、股旅ここにあり！』（2001年11月21日）
『吉田正作品集／橋幸夫』（2004年05月21日）
『橋幸夫ベスト～盆ダンス～』（2005年11月23日）
『橋幸夫 ザ・ベスト』（2012年07月25日）

（その他、多数のアルバムに収録）

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