音楽 (東京事変のアルバム)

東京事変、約10年ぶりのフルアルバム『音楽』：多様な音楽性と綿密な制作、そして華々しいプロモーション

2021年6月9日、ユニバーサルミュージックより、日本のバンド・東京事変のオリジナルアルバム『音楽』がリリースされました。フルアルバムとしては6枚目、通算では8枚目の作品となる本作は、前作『ニュース』から約1年2ヶ月、前作のフルアルバム『大発見』からは実に約10年ぶりの発表となりました。2012年の活動休止を経て、2020年1月1日の活動再開発表から、新作への期待が高まる中でのリリースとなりました。

制作：2018年から始まった、時間をかけて丁寧に紡がれた音楽

アルバム制作は、バンドの活動再開発表よりも前の2018年からスタートしています。最初に完成したのは「緑酒」と「赤の同盟」で、その後も断続的に楽曲制作が進められました。2020年時点ではリリース可能な状態だったものの、椎名林檎はさらに時間をかけ、2021年1月から3月にかけて新曲の作詞、歌入れ、最終的な仕上げを行いました。椎名自身はインタビューで、作詞の過程を「建造物を建てる際に、外壁に現地の砂を混ぜ込むように、現地の要素を混ぜて仕上げている」と表現し、本作では「砂に混ざっている危険物が減るのを待っていたのかもしれない」と語っています。この言葉には、熟成された音楽へのこだわりが感じられます。

音楽性：多様なジャンルが融合した、唯一無二の世界観

『音楽』は、ヒップホップ、ファンク、ソウル、ロックなど、様々な音楽ジャンルを巧みに融合させた作品です。特に前半はファンク色が強く、一方で椎名林檎自身は「コードワークに対するメロディーメイクにおいては、ファンクよりもジャズに近い」ともコメントしています。この多様な音楽性は、東京事変というバンドの幅広さと、その音楽的探求心を象徴していると言えるでしょう。

リリースとプロモーション：多角的なメディア展開で作品を強力に発信

『音楽』は、通常盤と初回限定盤の2種類で発売されました。初回限定盤には特製ハードケース、メンバーの制作風景を収めた写真帖「仕事中」、そして配信限定で人気を集めていた「赤の同盟」のマキシシングルCDが付属するなど、ファンを喜ばせる豪華仕様となっています。また、各販売店では、ポスターやメガジャケット、ポストカードといった購入者特典も用意されました。

アルバムリリース前後には、活発なプロモーション活動が展開されました。「ミュージックステーション」への出演や、YouTubeでのトーク番組「東京事変の花金ナイト『アジトなう。』」の生配信、テレビ東京「WBS」へのインタビュー出演、NHK総合での特番「NHK MUSIC SPECIAL 東京事変 ～人類と快楽～」など、多様なメディアを駆使した情報発信が行われました。さらに、「関ジャム 完全燃SHOW」や「2021 FNS歌謡祭 夏」、「音楽の日2021」といった音楽番組への出演も果たし、アルバム収録曲を披露しました。これらの活動は、本作への注目度を一層高めました。

チャート成績：高い人気を数字が証明

『音楽』は発売初週、Billboard JapanのCD売上ランキングで2位（43,599枚）、デジタルランキングで1位（4,363DL）を獲得し、総合アルバムチャート「Hot Albums」では2位で初登場を果たしました。オリコン「週間アルバムランキング」でも2位にランクインするなど、高い人気を数字でも証明する結果となりました。

収録曲：『三毒史』との繋がり、色名に込められた意味、そして個性豊かな楽曲の数々

本作は、椎名林檎が2019年に発表したアルバム『三毒史』と地続きの作品であり、奇数曲には男性ボーカルが参加しています（『三毒史』では偶数曲に男性ボーカルが参加）。多くの楽曲タイトルに色名が使われていることについては、椎名自身「タイアップ作品の都合で赤と青が先に決まり、そこからカラフルな音楽にしようと思った」と説明しています。また、全編英語詞の楽曲が収録されていないことも、本作の特徴の一つです。各楽曲は、メンバーそれぞれの個性や才能が光る、バラエティ豊かな内容となっています。

主な楽曲解説

孔雀（Peacock）： 浮雲との共作で、アルバムの幕開けを飾るにふさわしい楽曲。
毒味（Foretaste）： 羽生善治へのラブレターともいえる、初期に制作された楽曲。
紫電（Lightning）： 若者へのメッセージが込められた歌詞と、力強いメロディーが印象的。
命の帳（Veil Of Life）： テレビ東京系ドラマの主題歌。
黄金比（The Golden Ratio）： 普通のラブソングをテーマにした楽曲。
青のID（Blue Period）： 映画『さくら』の主題歌で、椎名自身作詞に苦労したと語っている楽曲。
闇なる白（Whiteout）： NHK総合ドラマの主題歌で、アルバムの中核を担う楽曲。
赤の同盟（Red Alliance）： 日本テレビ系ドラマの主題歌で、初回限定盤にシングルCDとして収録。
銀河民（The Galactic Man）： 伊澤と浮雲による共作で、韓国語の歌詞も含まれる。
獣の理（View Of Life）： メディアミックスプロジェクト「D_CIDE TRAUMEREI」のテーマソング。
緑酒（Awakening）： テレビ東京『ワールドビジネスサテライト』のエンディング曲で、本作のリード曲。
薬漬（Overdose）： アルバムのストーリーにおけるラストを飾る楽曲。
* 一服（Breather）： エンドロールのような役割を担う楽曲で、椎名からファンへのメッセージが込められている。

まとめ：東京事変の新たな魅力が詰まった、聴き応えのある作品

『音楽』は、約10年ぶりのフルアルバムという期待感、多様な音楽性、綿密な制作過程、そして活発なプロモーション活動など、様々な要素が絡み合って生まれた、まさに珠玉の作品です。音楽ファンのみならず、多くのリスナーに感動と興奮を与える、聴き応えのあるアルバムと言えるでしょう。現在、このアルバムを引っ提げたツアーは行われていませんが、今後の活動にも期待が高まります。

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