須磨弥吉郎

須磨弥吉郎：外交官、政治家、そして美術コレクター

須磨弥吉郎(1892-1970)は、日本の外交官であり、政治家として、そして類まれな美術コレクターとして知られる人物です。秋田県出身の彼は、中央大学法学部卒業後、1919年外務省に入省しました。流暢な6カ国語を操り、イギリスやドイツなどを経て、1927年には中国に赴任。上海日本公使館情報部長として対蔣介石政権の情報収集に携わった経験は、彼の生涯に大きな影響を与えました。

諜報戦のパイオニア：内閣情報部と東機関

中国での諜報活動を通して、情報の一元管理と総合判断の必要性を痛感した須磨は、山本五十六海軍次官らとともに1937年、対外情報収集と対外広報を目的とする内閣情報部の設立に尽力しました。その後、満州国でも情報部長を務め、その経験は彼の諜報活動における手腕をさらに磨きました。

日米開戦が不可避となった状況下、須磨は親枢軸国のスペインを拠点にアメリカの情報収集を行うという大胆な構想を立てます。1940年12月、彼は自ら駐スペイン特命全権公使として赴任し、「東機関」を設立、指揮を執りました。真珠湾攻撃後のアメリカによる日本在外公館閉鎖という困難な状況下においても、「東機関」は欧米各地に情報部員を派遣し、アメリカの情報収集に成功しました。その成果として、アメリカの原爆開発の情報やガダルカナル戦におけるアメリカ軍の動向など、貴重な情報を掴みました。しかし、これらの情報は日本政府・軍部で十分に活用されることなく、アメリカによる暗号解読によって「東機関」の活動は1944年半ばに壊滅させられました。

戦後と政治活動

終戦後、須磨はGHQの逮捕命令リストに名を連ね、A級戦犯容疑で巣鴨拘置所に勾留されましたが、1948年に不起訴となりました。公職追放解除後は政界に進出し、1953年の第26回衆議院議員総選挙で初当選。その後も再選を果たし、自由民主党に所属して1958年まで議員を務めました。

須磨コレクション：謎多き美術コレクション

須磨は外交官としての活動と並行して、1940年から1951年にかけて、スペインを中心に西洋美術のコレクションを形成しました。そのコレクションは、スペイン美術を中心に1700点以上にも及び、中国や日本の美術作品も含まれています。コレクションの資金源や収集目的など、多くの謎が残されていますが、戦後、スペイン政府から一部が返還され「須磨コレクション」として知られるようになりました。

「須磨コレクション」の一部は、1970年の全国巡回展の後、長崎県に寄贈され、現在、長崎県美術館に所蔵・展示されています。また、中国勤務時代に収集した中国美術コレクションも膨大で、その一部は京都国立博物館に収蔵されています。これらのコレクションは、須磨の多様な興味と、類まれな収集眼を示す重要な文化財となっています。その規模と質の高さから、学術的にも高い価値を持つと評価されています。

著書と栄典

須磨は、外交や諜報活動に関する著作を数多く残しています。また、1965年には勲二等旭日重光章を受章しています。彼の多才さと複雑な人生は、現代においても多くの関心を集めています。彼の生涯は、外交、諜報、そして美術という一見異なる分野を卓越した能力で繋ぎ合わせた、稀有な存在であったことを示しています。彼の功績は、歴史資料としての価値のみならず、現代社会における情報戦や文化交流のあり方について、多角的な視点から考察する上で重要な示唆を与えてくれます。

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