頑火輝石

頑火輝石（がんかきせき） - エンスタタイト

頑火輝石（がんかきせき、Enstatite）は、マグネシウムを主要な構成元素とするケイ酸塩鉱物の一種であり、結晶構造は斜方晶系に属します。これは輝石グループの中でも斜方輝石（orthopyroxene）と呼ばれるサブグループの代表的な鉱物です。

化学組成と固溶体

頑火輝石の理想的な化学組成は Mg₂Si₂O₆ で示されます。このマグネシウム（Mg）が鉄（Fe²⁺）によって置き換わることで、結晶構造を保ったまま連続的に組成が変化する性質（固溶体）を示します。鉄を主成分とする斜方輝石は鉄珪輝石（てつけいきせき、Ferrosilite、化学組成 Fe₂Si₂O₆）と呼ばれ、頑火輝石（En）と鉄珪輝石（Fs）の間には En-Fs固溶体系列 が存在します。この系列では、Mgの割合がEn50（50モル%）、Feの割合がFs50（50モル%）となる組成を境として、よりMgに富む組成を頑火輝石、よりFeに富む組成を鉄珪輝石と分類するのが現在の一般的な考え方です。過去には、この固溶体系列の組成範囲に応じて、古銅輝石（bronzite）、紫蘇輝石（hypersthene）、鉄紫蘇輝石（ferrohypersthene）、ユーライト（eulite）といった名称が使用されていましたが、現在ではこれらの呼称は鉱物学においては公式には使われなくなっています。

結晶構造と多形

頑火輝石は斜方晶系ですが、同じ化学組成 Mg₂Si₂O₆ を持ちながら、結晶構造が異なる単斜晶系の鉱物も存在します。これは単斜頑火輝石（clinoenstatite）と呼ばれ、頑火輝石とは結晶多形（polymorph）の関係にあります。

性質と特徴

頑火輝石の最も顕著な特徴の一つは、その高い融点です。約1400℃という非常に高い温度に達しないと融解が始まらない、優れた耐火性を持っています。結晶の色は無色から灰色、黄褐色、緑色など様々ですが、純粋なものは無色です。ガラス光沢を示し、完全な劈開を持ちます。

名称の由来

「エンスタタイト」という英名は、ギリシャ語で「対抗する」「抵抗する」といった意味を持つ「Enstates」という言葉に由来しています。これは、前述の通り頑火輝石が非常に高い温度でも溶けにくい、つまり「火に頑なに抵抗する」性質を持つことにちなんで名付けられました。和名の「頑火輝石」も同様に、その「頑な（かたくな）」な耐火性から名づけられたとされています。

産出

頑火輝石は、地球の地殻やマントルを構成する主要な鉱物の一つです。特に、マグマが冷却・固結してできた火成岩や、高い温度・圧力を受けて変質した変成岩の中に、造岩鉱物として広く産出します。例えば、玄武岩や安山岩といった火山岩、斑れい岩やノーライトといった深成岩、あるいはかんらん岩などに含まれます。また、隕石の中にも頑火輝石が発見されることがあります。

用途

造岩鉱物として普遍的に存在する鉱物であるため、特別な産業上の用途はあまり知られていません。しかし、結晶の形や美しさから観賞用として採掘される例もあります。かつて岩手県川井村（現在の宮古市）の道又地区では、放射状に集合した結晶が美しい標本として採掘された記録があります。その高い耐熱性を活かした工業的利用の可能性も研究されているかもしれません。

頑火輝石は、地球内部の物質構成や地質学的なプロセスを理解する上で非常に重要な鉱物です。その組成や産状を調べることで、岩石がどのような条件下で形成されたか、地球内部でどのような物質移動が起こっているかといった情報を読み取ることができます。

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