頸髄損傷

頸髄損傷：原因、症状、治療、そして生活への影響

頸髄損傷とは、首の脊髄が損傷することで、手足や体幹の運動機能、感覚機能、自律神経機能などに障害が生じる重篤な後遺障害です。交通事故や高所からの転落事故、スポーツ事故などが主な原因ですが、高齢者の転倒や、頸椎・脊髄の疾患も原因となる場合があります。

頸髄損傷の原因

頸髄は首の骨（頸椎）によって保護されていますが、強い衝撃を受けると損傷します。

交通事故: 自動車事故、バイク事故などは、頸髄損傷の主要な原因です。
転落事故: 高所からの転落、転倒などによる頸椎の骨折や脱臼。特に高齢者では転倒による受傷が懸念されます。
スポーツ事故: ラグビー、アメリカンフットボール、器械体操、スノーボード、スキージャンプ、ダイビングなど、激しい衝撃を受けるスポーツでの事故も原因となります。
その他の原因: 頸椎腫瘍などの疾患、落下物の衝突など。

男性の発症率が圧倒的に高く、若年層ではバイク事故が目立ちます。日本の脊髄損傷患者の約75％が頸髄損傷であると報告されています。

頸髄損傷の症状

頸髄損傷の症状は、損傷の部位と程度によって大きく異なります。損傷部位が脳に近いほど、障害の程度は重くなります。

運動機能

麻痺: 損傷レベル以下の部位に運動麻痺が生じます。完全麻痺では、全く動かせません。不完全麻痺では、部分的に動かすことができます。
呼吸機能: 呼吸に関わる神経も頸髄に存在するため、損傷部位によっては人工呼吸器が必要となる場合があります。
筋痙攣: 麻痺した筋肉が不随意に収縮する痙攣が起こることがあります。寒さによって悪化することがあります。
プッシュアップ: 座った状態から、腕を使って体を持ち上げる動作（プッシュアップ）は、車椅子への移乗などに重要な動作となります。

知覚機能

感覚障害: 温度覚、痛覚、触覚などの感覚が消失または低下します。怪我に気づきにくく、火傷や褥瘡（床ずれ）のリスクが高まります。

体幹機能

体幹筋の麻痺: 腹筋や背筋など体幹を支える筋肉の麻痺により、姿勢保持が困難になります。

自律神経機能

体温調節障害: 発汗機能の低下により、体温調節が困難になり、暑さや寒さに弱くなります。
起立性低血圧: 体位変換時に血圧が低下し、めまいなどを起こしやすくなります。
過反射: 排尿、排便時に血圧が急上昇し、頭痛、発汗、痙攣などを引き起こすことがあります。

排泄機能

排尿障害: 膀胱の機能障害により、排尿困難となります。導尿、尿道括約筋切除術、膀胱ろう造設術などの方法が用いられます。
排便障害: 腸の機能障害により、排便困難となります。下剤や浣腸を用いて排便を促すことが行われます。

頸髄損傷の治療

頸髄損傷の治療は、損傷の程度や部位、患者さんの状態によって異なります。

手術: 損傷した頸椎を固定する手術などが行われます。
リハビリテーション: 運動機能や日常生活動作の回復を目的としたリハビリテーションが重要です。
薬物療法: 痛みや痙攣の軽減、褥瘡予防などの薬物療法が行われます。
* 再生医療: iPS細胞などの再生医療が期待されていますが、臨床応用にはまだ時間がかかります。

頸髄損傷と日常生活

頸髄損傷は、日常生活に大きな影響を与えます。車椅子を使用する必要性、排泄介助、体温調節、褥瘡予防など、様々な課題に直面します。しかし、適切な治療とリハビリテーション、そして周囲のサポートによって、自立した生活を送ることが可能になります。

まとめ

頸髄損傷は、重篤な後遺障害ですが、早期の適切な治療と継続的なリハビリテーション、そして周囲の理解とサポートによって、患者さんの生活の質を向上させることが可能です。患者さん自身や家族が、病気に関する正しい知識をもち、専門家と連携して、積極的に治療に取り組むことが重要です。

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