顔面動脈腺枝

顔面動脈腺枝（がんめんどうみゃくせんし）

顔面動脈腺枝（がんめんどうみゃくせんし、英語: Glandular branches of facial artery）は、ヒトの頭頸部における動脈系の一部を構成する血管です。この動脈は、顔面に血液を供給する主要な血管である顔面動脈から分岐する重要な枝の一つとして位置づけられます。

解剖学的特徴

顔面動脈は、外頸動脈の前方から分岐し、下顎骨の下縁を乗り越えて顔面に分布する比較的太い血管です。顔面動脈腺枝は、顔面動脈が顎下腺の近くを走行する際に、顔面動脈から複数本の枝として分岐します。通常、その数は3本から4本程度であり、他の細かな枝に比べて比較的口径が大きいのが特徴です。これらの枝は、それぞれの供給先へと直接走行します。

供給領域と機能

顔面動脈腺枝の主な供給領域は顎下腺です。顎下腺は、耳下腺、舌下腺とともに大唾液腺の一つであり、混合性の唾液を分泌して口腔内の湿潤や消化を助ける重要な役割を担っています。顎下腺がその生理機能を適切に維持するためには、豊富な酸素と栄養を供給する血液循環が不可欠であり、顔面動脈腺枝がその主要な供給源として機能します。これらの枝は顎下腺の実質に入り込み、腺組織の細胞に血液を供給します。

顎下腺への主要な血流供給の他に、顔面動脈腺枝は、その周辺に位置する組織に対しても血液を供給します。具体的には、顎下腺に隣接する特定の筋肉、顎下部に存在するリンパ節群、さらにはその領域の皮膚組織の一部に対しても、これらの枝から派生する細い血管が血液を送る役割を担っています。

• - 隣接する筋肉: 顎下腺は口腔底や舌骨上筋群（例: 顎舌骨筋、顎二腹筋前腹など）に囲まれて位置しています。顔面動脈腺枝の一部は、これらの筋肉の一部に対して栄養を供給することがあります。これにより、筋肉の活動や代謝に必要な酸素や栄養素が運ばれます。

• - リンパ節: 顎下腺の周囲には、顎下リンパ節と呼ばれるリンパ節群が存在します。これらのリンパ節は、口腔や顔面下部からのリンパ液を集め、免疫応答に関与する重要な組織です。顔面動脈腺枝の一部は、これらのリンパ節に対しても血液を供給し、リンパ節の機能維持に寄与します。

• - 外皮（皮膚）: 顎下部周辺の皮膚組織に対しても、顔面動脈腺枝から分枝した血管が血液を供給することがあります。皮膚への血流は、皮膚細胞への栄養供給、酸素供給、老廃物除去、体温調節などに不可欠です。

このように、顔面動脈腺枝は、主に顎下腺の機能を支えつつ、周辺の筋組織やリンパ組織、皮膚に対しても血液を供給することで、顎下部領域の生理的な維持に広範に関与しています。

臨床的意義

顔面動脈腺枝を含む顔面動脈系の血流は、この領域の手術や疾患において重要な考慮事項となります。例えば、顎下腺の炎症や腫瘍、あるいは周辺組織の病変に対する外科的処置を行う際には、これらの血管の走行や供給領域を正確に把握することが、術中の出血管理や術後の組織血流維持のために極めて重要です。また、血管の閉塞や損傷は、供給領域の組織機能障害を引き起こす可能性があります。

顔面動脈腺枝は、その名称が示す通り腺組織への供給を主とする枝ですが、周辺構造への供給も行うことから、単に顎下腺のためだけの血管ではなく、顎下部全体の局所的な血行に貢献する動脈として理解されます。解剖学的な詳細な知識は、診断や治療計画の立案において不可欠となります。

総じて、顔面動脈腺枝は、顔面動脈の一部として、顎下腺を中心とした顎下部領域の機能維持に欠かせない役割を担う血管であると言えます。

もう一度検索