風にうたえば

『風にうたえば』：尾崎豊の未発表音源に新たな息吹を

1999年3月17日、ポリドール・レコードからリリースされた『風にうたえば』は、日本のロックシンガー、尾崎豊のコンピレーション・アルバムです。この作品は、尾崎がプロデビューを果たす前の若き日に録音しながらも、当時は未発表だった貴重な音源に焦点を当てています。

アルバムの最大の特徴は、収録された未発表音源に新たな編曲が施されている点です。著名な編曲家である服部克久がオーケストラアレンジを手掛け、尾崎の生声はそのままで、バックの演奏を壮大なオーケストラサウンドへと変更しています。これにより、オリジナルのデモ音源とは全く異なる雰囲気を持つ楽曲として生まれ変わりました。

収録音源の多くは、1997年にリリースされたコンピレーション・アルバム『Before the Seventeen's Map』に収められたものと同一ですが、8曲目と9曲目は本作独自の内容となっています。尾崎の楽曲を巡っては、デビュー後に所属したソニー・ミュージックレコーズ以外のレーベルから過去に発表された一部の音源集が、尾崎のファンクラブや個人事務所であるアイソトープによって「著作者の意思に反する」として公式とは認定されていませんでした。しかし、本作はアイソトープが製作協力をしていることから、公式なリリースとして位置づけられています。

収録曲の背景と「風にうたえば」

本作には、尾崎が1982年10月11日に参加したCBS・ソニー主催のオーディション『CBS SONY Sound Development Audition 1982』で披露した楽曲が含まれています。具体的には、「ダンスホール」「町の風景」「Street Blues」「もうおまえしか見えない」の4曲です。

これらの楽曲のうち、「町の風景」は後にデビューアルバム『十七歳の地図』（1983年）に「街の風景」と改題されて収録され、「ダンスホール」は2枚目のアルバム『回帰線』（1985年）に収められましたが、それぞれ本作に収録されているバージョンとは歌詞が異なっています。「Street Blues」は、2枚目のシングル「十七歳の地図」（1984年）の原曲となった楽曲です。

アルバムの表題曲である「風にうたえば」は、1999年に公開された映画『大阪物語』の主題歌として使用されました。本作のライナーノーツによると、同映画の市川準監督やプロデューサーが、「この曲でなければ映画が成り立たない」と強く要望したことが、主題歌決定の決め手となったと記されています。本作には、実際に映画で使用された「風にうたえば (Movie Version)」も収録されています。音楽評論家からは、この曲について「フォーキーなロード・ミュージック」の要素を持ち、主人公が母親に置き手紙を残して旅に出るという歌詞の内容が「興味深い」と評されています。

また、本作に付属するブックレットには、尾崎の未発表写真が多数掲載されており、ファンにとって貴重な資料となっています。

批評家からの評価

『風にうたえば』のサウンド面に対する評価は、概ね肯定的でした。音楽情報サイト『CDジャーナル』は、尾崎がアマチュア時代に自宅で録音した音源をアレンジしてリリースする手法を「反則ワザ」としつつも、未発表写真満載のブックレットを含めて「尾崎ファンは間違いなく買い」と強く推奨しました。また、服部克久によるオーケストラアレンジについては、「バックの厚いサウンドに乗って楽曲のスケールの大きさがより一層、はっきりと提示された」と、その効果を高く評価しています。

音楽誌『別冊宝島』においても、ライターの宮城正樹が本作が尾崎のアマチュア時代の宅録音源からボーカルを抽出し、そこにオーケストラアレンジを施した作品であることを紹介した上で、数ある未発表音源を含む作品の中でも「最も聞きやすい仕上がり」であると評価しました。尾崎の若き日の「原質」が聴ける音源であることから、「まあ、ひとつ、『聴いてみてもいいかな』盤である」と肯定的な見解を示しています。

本作は、尾崎豊というアーティストの創造活動の初期段階に触れることができる貴重な記録であると同時に、新たなアレンジによって現代に蘇った作品として、ファンにとっても、その音楽性を探求する上でも重要な一枚となっています。

スタッフ・クレジット

演奏、歌：尾崎豊
ミキシング・エンジニア（8, 9曲目）：伊藤隆文（音響ハウス）
マスタリング・エンジニア：中里正男（音響ハウス）
アートディレクター：大野拓家（ラグタイム）
デザイン：いわたにあつし（ラグタイム）
写真撮影：ハービー・山口
題字、製作協力：中原敬裕（尾崎豊研究会）
製作協力：アイソトープ、児玉由美子（尾崎豊研究会）、映画『大阪物語』製作委員会

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